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侵襲性髄膜炎菌感染症:血清群Wの増加, 2013~2017年―ヨーロッパ

(IASR Vol. 40 p110:2019年6月号)

近年, ヨーロッパ全体では侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の罹患率が減少しているが, 2004年に血清群W(MenW)によるIMDが南米へ拡大した後, 英国, オランダ, スウェーデンなどからもMenWの罹患率増加が報告されている。分離された菌株の多くは, multilocus sequence tyoing(MLST) 法を用いた遺伝子型解析でクローナルコンプレックス 11(cc-11)に分類されており, 高病原性である。MenW:cc11症例には消化器症状を示す者もあり, これは他の血清群によるIMDではまれな所見である。MenW:cc11症例の致死率は他の血清群の2倍以上で, IMD症例全体に占めるMenW:cc11症例の割合は小児よりも成人で高いとの報告がある。高病原性のMenW:cc11が英国で急速に広まったことを受けて, 2015年8月, 全ての13~18歳と25歳以下の大学生を対象とした髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)プログラムが導入された。10歳代を対象としたワクチンプログラムはイタリアやオランダでも導入され, ギリシャとオーストリアでは接種が推奨されている。

この後方視的観察研究では, 2016年のヨーロッパ髄膜炎菌・ヘモフィルス属菌学会 (EMGM) ワークショップに参加した13のリファレンスラボ(チェコ共和国, イングランド, フィンランド, ドイツ, ギリシャ, イタリア, オランダ, ノルウェー, ポーランド, ポルトガル, スペイン, スウェーデン, スイス)から, 2013~2017年のサーベイランスデータが提供された。内容は, IMD症例数, MenW IMD症例数, およびそれらの年齢分布に加え, 2013~2016年のcc11についてのデータである。この研究に参加した国の人口は, ヨーロッパ(EU/EFTA)全体の3分の2以上を占めた。 

参加国においてIMDの報告は義務付けられており, 検査診断例の割合は平均90%(範囲60~100%)であった。リファレンスラボはEUの症例定義に従って症例数を報告した。血清群別は, 精度向上のためリファレンスラボでの分析に限り, スライド凝集法またはPCR法で行った。クローナルコンプレックスの分類は, サンガー法または次世代シークエンサーを用いたMLST法で実施した。 

国別の年間IMD罹患率の変化はポアソン回帰分析で算出し, p値が0.05未満の場合に統計学的有意とした。 

参加国全体で2013~2017年にIMD10,385症例が報告され, 人口10万人当たりの年間IMD罹患率(以下, IMD罹患率)の平均は0.58, MenWが全症例数の13%を占めた。イングランドにおいて, IMD罹患率(1.34)およびMenW罹患率(0.30)の最も高い値を示した。観察期間中, IMD罹患率は安定的に推移したが, MenW罹患率は0.03(2013年)から 0.11 (2017年)へ有意に増加し(平均変化率35%, p<0.002), IMD症例数に占めるMenWの割合も5%(2013年)から19%(2017年)へと有意な増加を示した。国別にみると, MenW罹患率は, オランダ(133%), ノルウェー(86%), スペイン(62%), スウェーデン(58%), スイス(44%), ドイツ(35%), イングランド(23%)で有意に増加した。2013~2017年のIMD症例数に占めるMenWの割合は, スイス(24%), オランダ(23%), イングランド(22%)で高値であった。 

2016年のIMD症例数に占めるMenWの割合は15~ 24歳(18%), 45~64歳(24%), 65歳以上(34%)の年齢群で高く, 14歳以下(10%)と25~44歳(9%)では平均を下回った。しかし, MenW罹患率は5歳未満(人口10万人当たり0.8)で最も高く, 症例数は65歳以上(n=137)で最多であった。 

2013~2016年のMenW IMD936症例の82%についてMLST解析が行われ, このうち80%がcc11に分類された。解析されたMenWに占めるcc11の割合は, 最も低いチェコ共和国で1/6, 最も高いスイスでは31/34であった。 

MenW罹患率は, オーストラリアやカナダでも増加している。2015年には, 日本で開催された世界スカウトジャンボリーに関連した数カ国にわたるアウトブレイクが発生し, 英国由来のMenW:cc11株が原因であった。過去には, 1990年代の血清群C:cc11, 1960年代以降の血清群A, 1970年代以降の血清群Bといった類似例があるが, これらの大陸間流行を予測することは困難であり, メカニズムは依然不明である。ただし, 次世代シークエンサーでの解析によって, 南米, イングランド, オランダで分離されたMenWには関連があることが判明しており, cc11は特に伝播能力が高いのかもしれない。 

この研究では, MenW IMD症例は45歳以上, 特に65歳以上に多かったが, この年齢群で髄膜炎菌が循環しているのか, それとも保菌している小児や10代の年齢群が高齢者への伝播の主な原因となっているのかは明らかではない。過去に20歳前後で保菌率が最も高いという報告はあるが, 成人や高齢者での保菌率についての研究は稀であり, ヨーロッパにおけるMenWの流行を理解するためには, 全年齢群の保菌率についての研究が必要である。ワクチンプログラムの対象, 接種率, 導入年は国ごとに異なるため, その効果について結論を導くには時期尚早である。理論的には, 青年期を対象としたワクチン接種により集団免疫の効果が得られる。 

髄膜炎菌の流行が予測困難なことやcc-11の伝播能力を考慮しつつ, ヨーロッパ諸国はそれぞれの状況に応じてワクチンスケジュールの改正等の対策を考えることになるだろう。

 

(Euro Surveill. 2019; 24(14): pii=190404e)
(抄訳担当:防衛医科大学校 金山敦宏)

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