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長野県の露店で発生したSalmonella Goldcoastによる食中毒

(IASR Vol. 38 p.85-86: 2017年4月号)

近年, お祭りやイベントなどの行事において食品を取り扱う露店数が増加し, 提供される食品も多様化している。これまでに露店が原因の集団食中毒事例として, 冷やしきゅうりや鶏肉の寿司の報告があるが, 全国的にみても露店で提供した食事が食中毒と断定されるケースは少ない。

 今回, 我々は長野県内の露店で提供されたイカ焼きを原因としたSalmonella Goldcoast(以下SG)による食中毒事例を経験したので報告する。

1.事件の概要

(1)事例1

2016年7月14日, 医療機関Aから「胃腸炎症状を呈し受診した複数の患者からサルモネラ属菌が検出された」旨の届出が隣接する佐久保健所にあった。探知の時点で患者数は11人で, 患者全員が7月9日に開催された祭りで露店が提供した食品を喫食していた。

露店の地割表で聞き取り調査を行った結果, 患者全員が露店営業者B(上田保健所管内登録施設)が調理・提供した「つぼ抜きイカ焼きまたはイカ串焼き(以下イカ焼き)」を喫食していた。患者のうち1名は, 祭りに参加しておらず, お土産のイカ焼きを喫食していた。

患者便7検体, 調理従事者便1検体, 計8検体の細菌検査の結果, 患者便6検体からサルモネラO8群を検出し, 血清型別検査でSGと同定した。

7月20日, 上田保健所は当該施設を原因施設とする食中毒と断定し, 同日から21日まで営業停止処分とした。

(2)事例2

2016年7月22日, 医療機関Cから「胃腸炎症状を呈し受診した複数の患者からサルモネラ属菌が検出された」旨の届出が上田保健所にあった。患者全員が, 7月16日に開催された祭りで, 事例1と同一露店営業者Bが調理・提供したイカ焼きを喫食していた。

患者便5検体, 調理従事者便1検体, 計6検体の細菌検査の結果, 患者便5検体からサルモネラO8群を検出し, 血清型別検査でSGと同定した。

なお, 事例1と2で発生日時および発生場所は異なるものの, 同一露店営業者Bが提供したイカ焼きを原因とし, SGを原因物質とした一連の事件として扱った。また, 事例2を探知した時点では, すでに事例1に伴う営業停止処分がなされ, 施設もすでに撤去されており, 被害拡大防止が図られていたことから, 追加の営業停止処分は行わなかった。

事例1および2を合わせ, 最終的に把握・調査できた喫食者数は40人であり, そのうち発症者は34人(発症率85%)であった。また, 潜伏時間は事例1が15.5~94時間, 事例2は23~73時間であり, 24~48時間の間に集中していた()。主な症状は, 下痢, 腹痛, 発熱であり, 2人が入院した。

2.施設調査

(1)施 設

調理施設である露店は, テント内に手洗い・流しはなく, バケツに入れた水で手を洗っていた。使い捨て手袋は使用していなかった。

(2)食材等

原材料のイカは冷凍品で, 事例1および2とも同一業者から仕入れていた。

両事例ともイカは完売しており残品はなかったが, 事例2探知の際に, 露店営業者が次の祭りに向けて仕入れていた冷凍イカがあった。この冷凍イカおよびタレを塗る際に使用していたハケ(業者がアルコール消毒実施済み)についてサルモネラ属菌の検査を行った。

その結果, 冷凍イカからSGは検出されなかったが, ハケからSGが検出された。

露店営業者には, ハケ等の調理器具の消毒方法等について再指導した。

(3)調理工程

祭り当日の朝9時頃に宅配業者から受け取った冷凍イカを発泡スチロールに入れて常温保存し, 15時頃~20時30分頃まで調理, 販売していた。

調理工程は, 凍結した状態のイカを発泡スチロールから取り出し, 鉄板上で4~5分間前焼き後, 割り箸を刺してからカミソリで切れ目を入れていったんバットに置き, 注文が入ったところでタレをハケで塗り, 再度40秒~1分間焼いて提供していた。

タレは, 当日市販のしょう油にチューブ入りのショウガおよびニンニクを混ぜたものであった。

3.考 察

露店は, その営業形態として不特定多数に飲食物を提供することから, 食中毒が発生した場合に大規模となる傾向がある。

今回の事例では, 患者便およびタレを塗っていたハケからSGが検出されたものの, 原材料等が残っていなかったために汚染源の特定には至らなかった。一方で, 原材料が加熱不足であった可能性が高いこと, 露店での営業であり, 水道設備がなく, 手指および調理器具の洗浄・消毒が不十分であったことから食品への汚染が拡大したことが推察された。

露店は一時的な営業であるために衛生管理が疎かになりやすく, 今回の事例からも消毒等に関して十分な知識を有していないことが判明したことから, 露店営業者への衛生教育・指導をさらに徹底する重要性を強く感じた。

 

長野県上田保健福祉事務所
 荒川知幸 山口哲弘 田中 隆 原 正彦 嶋﨑真実 小野諭子 保科誠一 荻原一幸
 小林隆志 長棟美幸

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