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国立感染症研究所
2019月1月15日現在
(掲載日:2019年2月21日)

侵襲性インフルエンザ菌感染症(IHD)は、2013年4月から感染症法に基づく五類感染症全数届出の対象疾患となった。感染症法上の届出の定義は、Haemophilus influenzaeによる侵襲性感染症として、本菌が髄液又は血液などの無菌部位から検出された感染症とされている(届出基準、届出票については、https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-44.html参照)。2016年11月から届出基準における診断に用いる検体の種類が追加され、血液・髄液からの検出に加え、その他の無菌部位からの検出も含まれるようになった。

国の感染症発生動向調査(National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases:NESID)では、2013年第14週から2018年第52週に1,729例のIHD症例が報告された(2019年1月15日現在のデータを利用)。報告数は経年的に増加傾向を示した(図1)。IHD症例の届出時点での死亡の頻度(ここでは致命率とする)は、2013年から2018年までは5.6~8.3%であった(表1)。

また、2013年第14週から2017年第52週に報告されたIHD症例を年齢群別病型別に分類した(2019年1月15日現在のデータを利用)。各病型は、以下のように定義した。ここで、菌の検出とは、病原体もしくは病原体遺伝子が検出された場合とする。

  • 髄膜炎:髄液から菌が検出された場合、または、血液から菌が検出され、かつ症状欄に「髄膜炎」と記載があるもの
  • 肺炎:血液から菌が検出され、かつ症状欄に「肺炎」と記載があるもので、髄液からの菌検出がなく、症状欄に「髄膜炎」の記載がないもの
  • 菌血症:血液から菌が検出されたもので、髄液からの菌検出がなく、かつ症状欄に「髄膜炎」「肺炎」「中耳炎」「その他の症状」の記載がないもの

図2に人口10万人当たりの年齢群別病型別の年間報告数を示した。

報告された全年齢のIHD症例の病型の内訳は、髄膜炎65例(5%)、肺炎640例(51%)、菌血症358例(29%)、その他181例(15%)であった。  

年齢群別人口10万人当たりの報告数は、5歳未満と65歳以上に多く、特に1歳未満が最も多かった。年齢群別人口10万人当たりの病型分類では、1歳未満で他の年齢群と比べ髄膜炎の報告数が多く、65歳以上では肺炎が半数以上を占めた。 髄液・血液以外の無菌検体からの菌検出により届出に至った症例は7例あり、検出検体として、胸水(4例)、胸水・腹水(1例)、関節液(1例)、心のう液(1例)が記載されていた。  

2013~2018年にNESIDに報告されたIHD症例報告数は経年的に増加傾向であり、届出について医師への周知が進んできている可能性も示唆されるとともに、届出対象疾患となった当初の報告数は過小評価であった可能性が示唆された。また、2016年11月から届出基準における診断に用いる検体の種類が追加され、血液・髄液からの検出に加え、その他の無菌部位からの検出も含まれるようになったが、血液・髄液以外の無菌検体からの菌検出により届出に至った症例は7例のみであった。2018年までにみられた経年的な報告数の増加において、この届出基準の追加による影響は、現時点では大きくないと考えるが、今後周知が進むにつれて経年的な報告数の評価にはより注意が必要となる。  

今回の解析の制約として一つ目に病型分類方法が挙げられる。NESID上の検査に関する情報は十分ではなく、医師の症状記載における診断を参考に病型分類を行ったため、菌分離検体に基づく客観的な病型分類ではない。このためそれぞれの病型において過小評価、過大評価のいずれも有りうると考えられる。また二つ目に、死亡数(致命率)はNESIDの届出時点での情報であり、届出後に死亡した症例が含まれていない。正確な死亡数および算出される致命率は異なる可能性がある。  

2013年4月にIHDが全数届出の対象疾患となって5年が経過した。報告数は依然として増加傾向にある。また、2016年11月以降、届出基準において、検査材料として髄液、血液以外に「その他の無菌部位」も追加されたことから、サーベイランスデータとしての解釈には注意が必要である。  

2008年12月に任意接種としてインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b: Hib)ワクチンの接種が可能となり、2013年4月から生後2か月以上60か月未満の乳幼児を対象に定期の予防接種に導入された。NESIDの届出対象はIHDであり、b型以外のIHDも対象に含まれる。定期接種導入後のIHDの経時的な疫学変化をとらえるために、今後も継続的にデータの収集と監視を続けることが重要である。

 


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