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(2014年08月15日改訂)

エボラ出血熱はエボラウイルスによる急性熱性疾患であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱とともに、ウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever:VHF)の一疾患である。本疾患が必ずしも出血症状を伴うわけではないことなどから、近年ではエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)と呼称されることが多い。以後、EVDと略する。

EVDで重要な特徴は、血液や体液との接触によりヒトからヒトへ感染が拡大し、多数の死者を出す流行を起こすことである。そのため、EVDの流行は、しばしば注目を浴びてきた。2014年8月現在、西アフリカ諸国で起こっているEVDの流行は2014年3月にギニアで集団発生から始まり、住民の国境を越える移動により隣国のリベリア、シエラレオネへと流行地が拡大している。EVD患者の発生が持続しており、これまで知られている流行のうち最も大きな流行となっている。なお、WHOは2014年8月8日に本事例をPublic Health Emergency of International Concern(国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態)とし、流行国等に更なる対応の強化を求めている。

 *旧版の「エボラ出血熱とは」(2002年現在までの情報や図表を中心に解説)はこちら

疫学

1976年から2014年8月時点に至るまで、20回を超えるEVDのアウトブレイクが報告されてきた(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/)。自然宿主として、オオコウモリ科のオオコウモリの複数種が自然宿主ではないかと考えられている。

<主なアウトブレイク>

西アフリカ(2014):2014年8月11日現在(http://www.who.int/csr/don/2014_08_13_ebola/en/)、EVD患者(疑い例を含む)の累計は、総数で1975例、うち死亡例1069例で致命率は54%。国別の内訳(報告国)は、ギニアで510例(死亡377例)、リベリアで670例(死亡355例)、シエラレオネで783例(死亡334例)、ナイジェリア12例(死亡3例)である。6月24日時点(総数618例)で、51例(8%)が医療従事者であった。流行の第一波は、2014年1月から3月にかけて発生し、多くの症例がギニアから、またリベリアからも複数の症例が報告されている。一時、ギニアにおいては症例数が減少傾向にあったが、第二波が2013年5月に始まり現在まで持続し、ギニア・リベリア以外に、シエラレオネにおいても多数の症例が報告されている。なお、ナイジェリアの最初の死亡例は、リベリア人の40歳男性で、空路でリベリアからトーゴ、ガーナを経てナイジェリアに行き、渡航中に発症、ナイジェリアの病院でEVDと診断され、数日後に死亡した例であった。また、リベリアにおいては、2名の米国人医療従事者がEVDと診断された。

ギニアの初期の確定例15例(男性8例・女性7例、年齢範囲7~55歳、年齢中央値28歳)について記述されているBaizeらの論文(N Engl J Med. 2014 Apr 16)によると、確定例の臨床症状は、発熱、下痢、嘔吐であり、検体を採取した段階では、ほとんどの症例で出血症状は認められていなかった(後に出現したかは不明)。15例中経過を追えた14例のうち12例が死亡した(致命率86%)。

2003~2007年:コンゴ共和国(2回)及びウガンダで、100人を超える患者発生の報告があった。詳細についてはWHOの情報などを参照されたい。(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/

(以下の1976年までのアウトブレイクの情報は旧版の「エボラ出血熱とは」より抜粋)

2001〜2002 年ガボンとコンゴ共和国:2001 年12 月にガボンとコンゴ共和国の国境地帯で発生し、2002 年4 月までにガボンで65 例(死亡者数53 名)、コンゴで32 名(死亡者数20 名)の流行があった(致命率は両方で75%)。

2000〜2001年ウガンダ:スーダンとの国境に接する北方地域のグルで10月に始まり、南のマシンデイ(27例)や遠く離れたムバララ(5名)でも発生し、計425名の患者と225名の死亡者(53%)を出して過去最大の流行となった。他地域への感染の拡大は、グル地区 で行われた葬式に参加して感染した者や家族間で感染した者が国内移動したことによる。死者の清拭や、葬儀の際の死者とのお別れの儀式による血液や体液との接触が感染拡大の原因である。そのため女性感染者が269名(63.3%)を占めたが、患者の平均年齢は27歳で、最低年齢は3日齢、最高齢は72歳であった。ま た、しばしば問題となる医療従事者の感染は29 例であった。この時の アウトブレイク時では、WHO を主体に全世界から23のチーム、104名の人材が派遣され、国際的な対策チームが組織され対応した。日本人専門家は計5名が参加し、臨床例の対応にあたった(IASR 2001,vol 22,57-59 ;https://idsc.niid.go.jp/iasr/22/253/fr2531.html )。

1994年コートジボアール、1996 年ガボン:この2カ所での発生にはいずれもチンパンジーが関与しているが、チンパンジーはヒトと同様終末宿主であり、自然界の宿主ではないとされている。前者は、死亡したチンパンジーの解剖に携わっていたスイス人女性が感染したもので、後者では、森で死亡していたチンパンジーに子供たちが接触し、感染発症したことが発端である。1996年10月のガボンでの発生では、原因・経路は不明である。ヒトの抗体保有調査は発生があったときその周辺でなされてきたが、不顕性感染者が数%(男女とも)いることもわかっている。

コンゴ民主共和国(旧ザイール)(1976、1977、1995):1976年のスーダンでの発生から2カ月後、北部のヤンブク教会病院を舞台として大発生が起こった。病院とそこに出入りしていた患者と家族、医療関係者の間で感染拡大が生じたものである。初めは、ヤンブク教会学校の教師(44歳男性)がマラリアの疑いで注射を受け、その同じ注射器で他の注射を受けた9人全員が感染し、全員死亡した。それらの患者との接触、医療を通じ伝播が起こった。マスク、手袋、ガウン、注射器等の基本的不足による。約2カ月の間に318名の患者 中280名(88%)が死亡した。結局、米国CDC、WHO、ベルギーのチームが入り、終焉した。ヒトからヒトへの伝播は急性期の患者との直接接触によるものである。ヤンブクでは病院のスタッフ17名中13名が発症し、11 名が死亡し、病院は閉鎖された。それから 18年後の1995年、遠く離れたザイール中央部のキクウイットで、町の総合病院を中心に4月初め患者が発生した。244名の死亡者中100名以上は医療関係者であった。この際もガウン、手袋、長靴、注射器等の不足が感染拡大の最大の理由であった。発生の1カ月後に情報が米国に入り、その10日後エボラウイルスによることが判明し、直ちに米国、WHO、ベルギー等のチームが入り、6月20日に終焉した。なお、このときに分離されたウイルスの遺伝子配列は、19年前のヤンブクでの流行時に分離されたウイルスのそれとほとんど同じであった。

スーダン(1976、1979):1976年6月末、ス―ダン南部のヌザラ、マリディを中心に284名が感染し、151名(53%)が死亡した。ヌザラの町の綿工場で倉庫番の男性が発症し、次々と家族、医療関係 者等に伝播したもので、さらに独立した2例から家族内、院内感染として感染拡大が生じた。1979年にはヤンピオで5家族34名が発症し、22名が死亡した。

病原体

エボラウイルスはマールブルグウイルスと共にフィロウイルス科(Filoviridae)に属する。短径が80〜100nm 、長径が700〜1,500nm で、U 字状、ひも状、ぜんまい状等多形性を示す(旧版「エボラ出血熱とは」図2を参照)が、組織内では棒状を示し、700nm 前後のサイズがもっとも感染性が高い。スーダン株とザイール株との間には生物学的にかなり差がある。

たとえば、in vitro での細胞培養(Vero 細胞)で、ザイール株は急速に細胞を変性・壊死にいたらしめるのに対して,スーダン株はあまり強い変性を示さない。また、in vivo でもマウス、サル類での病原性は大きく異なる。ザイール株は極めて強い病原性を示し、速やかに死に至らしめる。病原体は他のVHF ウイルスと同様にレベル4に分類されており、ウイルス増殖を伴う作業は最高度安全実験施設(BSL-4施設 あるいはP4施設)でなされる必要がある。フィリピンでカニクイサルが発症したときの原因であるレストン株は、ヒトへの病原性はないとされるが、その結論を得るにはさらなる研究が必要である。

日本では国立感染症研究所村山庁舎にグローブボックス式P4施設が1981年に設置されたが、現在までBSL-4施設としては稼働されていない。世界では宇宙服式、グローブボックス式を含めて30カ所以上で稼働中である。アフリカではガボン及び南アフリカ共和国にP4施設がある。

他のウイルス学的所見

EVDを引き起こすエボラウイルスには5つの種(ザイール、スーダン,ブンディブジョ、タイフォレスト、レストン)が存在し,レストンエボラウイルス以外はサハラ砂漠以南の熱帯雨林地域で発生したEVDの流行の原因となっている。2014年に西アフリカで発生しているエボラウイルスについては、ギニアで発生しているエボラウイルスの遺伝子情報から系統樹解析が行われている(Dudas and Rambaut, PLOS CURRENTS OUTBREAKS, May 2, 2014. Phylogenetic analysis of Guinea 2014 EBOV ebolavirus outbreak)。それによると、このウイルスはアフリカ中央部のコンゴ民主共和国・コンゴ共和国・ガボンで発生したことのあるザイールエボラウイルスに分類され、ザイールエボラウイルスに極めて近縁のエボラウイルスであるとの結果が得られた。この結果は西アフリカで発生しているエボラウイルスがアフリカ中央部に由来することを強く示唆するものであるが、いつ頃、どのような経路で西アフリカに移動したのかは分からない。5つの種の中でザイールエボラウイルスは最も強い病原性を示す。今回のEVD流行における高い致命率(約60%)は、原因ウイルスの病原性が高いことに起因していると考えられる。

臨床症状

EVDの最も一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常、さらに症状が増悪すると出血傾向となる。検査所見としては白血球数や血小板数の減少、および肝酵素値の上昇が認められる。潜伏期間は2日から最長3週間といわれており、汚染注射器を通した感染では短く、接触感染では長くなる。集団発生では致命率は90%にも達することがある。2000 年のウガンダでの流行では上記症状に加えて、衰弱のほか下痢等の消化器症状が目立ち、出血症状が認められたのは10%以下であった。肝臓でのウイルス増殖(旧版「エボラ出血熱とは」図3を参照)による肝腫脹により、右季肋部の圧痛や叩打痛が特徴的である。ただし、症状として“EVDに特徴的なもの”はない。

病原診断

血液、咽頭拭い液、尿がウイルス学的検査材料である。迅速診断として、ウイルスゲノムのRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCRによる検出法、ウイルス抗原検出ELISAによる検出法がある。抗体の検出法としてIgG-ELISA, IgM-捕捉ELISA, 間接蛍光抗体法がある。血液、体液等からウイルスを分離するのがもっとも確実な検査法であるが、通常1週間以上を要する。国立感染症研究所ウイルス第一部第一室(村山庁舎)がEVDを含むウイルス性出血熱の検査を担当している。 次のいずれかが満たされた場合、「エボラウイルス病(EVD)」とする。

  • 被験検体からエボラウイルスが分離された。
  • 被験検体からRT-PCR法でエボラウイルスゲノムが検出された。
  • 被験検体から抗原検出ELISA法で,エボラウイルス核蛋白が検出された。
  • 間接蛍光抗体法またはIgG ELISAで判定された急性期と回復期に採取されたペア血清のエボラウイルスの核蛋白に対する抗体価が,4倍以上の有意に上昇した。 次の場合、「エボラウイルス病(EVD)」を疑う。
  • IgM-capture ELISAで,EBO-NPに対する特異的IgM抗体が検出された。

感染経路

EVDは感染したヒトまたは動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染の危険が生じる。 ヒトへの感染の発端が、アフリカでは熱帯雨林の中で発見された、感染して発症または死亡した野生動物(チンパンジー、ゴリラ、オオコウモリ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなど)をヒトが触れたことによると示唆される事例が報告されている。その後、感染したヒトの血液、分泌物、臓器、その他の体液に、創傷のある皮膚や粘膜を介して直接的接触することにより、またはそのような体液で汚染された環境への間接的接触でヒト-ヒト感染が起こる。地域で行われていた葬式の風習も(会葬者が遺体に直接触ること)、EVDの感染伝播に寄与したと考えられる。接触感染予防対策が適切になされないこと、適切に実施できない環境にあることが、医療従事者における感染の原因である。 EVDは基本的に稀な疾患であるが、エボラウイルスに感染しないためには、流行が知られている地域に行かない(そのための情報をあらかじめ収集する)、野生動物の肉を生で食さないことが重要である。流行地では患者(感染者)の体液(排泄物を含む)や、患者が触れた可能性のある物品に触れないようにし、十分な手洗いを実践することが重要である。

治療・予防

現時点で承認されたワクチンや治療薬はないが、研究段階にあるいくつかの薬剤は西アフリカでの発生を受けて,承認前のヒトへの投与について検討がなされている。治療は対症療法のみである。抗体が検出されるようになると急速に回復に向かう。疑い患者の血液等を素手で触れないこと(手袋を必ず使用する)が重要である。空気感染はない。

感染症法における取り扱い(2014年8月現在)

全数報告対象(1類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら

学校保健安全法における取り扱い(2014年8月現在)

第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。 
また、以下の場合も出席停止期間となる。
・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間 

 

(国立感染症研究所 ウイルス第一部/感染症疫学センター)

 

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