国立感染症研究所

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大阪府下における小児リステリア髄膜炎の1例

(IASR Vol. 35 p. 293- 294: 2014年12月号)

2013年11月に大阪府下において、小児リステリア髄膜炎の症例を経験したので、その概要をここに報告する。

症例は1歳1か月男児、生来健康で予防接種はHibワクチン3回、肺炎球菌ワクチン4回接種済みであった。第1病日より、39℃の発熱、その晩22時に2~3分の全身性の間代性痙攣を認め、当院時間外に救急搬送された。受診時には意識清明であり、神経学的所見、血液検査上も特に異常なく、経過より熱性痙攣と診断し、ジアゼパム(DZP)4mgを投薬し経過観察、帰宅となった。その後も39℃の発熱が持続、軟便が出現したため、第3病日に時間外再診。咽頭アデノウイルス、溶連菌迅速抗原検査で陰性。水分摂取良好のため、突発性発疹、普通感冒などを疑いアセトアミノフェン坐薬、乳酸菌製剤を追加処方して経過観察となった。

その後も40℃の発熱が持続し、第5病日に近医小児科を受診、便アデノウイルス検査陽性。尿量減少があり、当科紹介受診となった。血液検査所見で、WBC 10,500/μl(Neut 76%)、CRP 6.93mg/dlを認め、またNa 129mEq/L、K 2.6mEq/Lと低値を認めたため、アデノウイルス性腸炎による脱水、抗利尿ホルモン分泌不全症候群(SIADH)と判断して第5病日入院となった。

入院同日より痙攣様運動を認めた。これまでの経過から胃腸炎関連痙攣を疑い、カルバマゼピン(CBZ)50mgの経口投与を行った。その後、痙攣様運動は落ち着き、意識も清明となった。しかし、19時ごろより再度痙攣様運動を認め、鎮静目的にフェノバルビタール(PB)15mg/kgの投与を行った。その後も痙攣様運動が持続するため、PB 10mg/kg/dayを開始、脳波検査、髄液検査、頭部CTを施行となった。脳波では、高振幅の徐波も認めるものの、正常な基礎波も認め、また、てんかん発作波は認めなかった。頭部CTでも、明らかな出血の所見なく、また、浮腫を疑わせる所見は認めなかった。髄液検査では、単核球優位の細胞上昇を認め、糖の低下、蛋白の上昇も認めた。よって細菌性髄膜炎を疑い、デキサメサゾンを開始、抗菌薬はセフォタキシム(CTX)、メロペネム(MEPM)、また、ヘルペス脳炎の可能性も考えアシクロビル(ACV)を開始となった。また、ガンマグロブリン投与、マンニトール投与も開始となった。第6病日午後には第5病日における髄液検体のグラム染色によりグラム陽性桿菌が検出され、リステリア菌を疑い、アンピシリン(ABPC)400mg/kg/day開始となった。その後の血圧が不安定となり、ICU入室、脳波上も高振幅徐波を認めていたため、高次医療機関に転院となった。

転院後、MEPM、CTXを中止し、ゲンタマイシン(GM)30mg/kg/day+セフトリアキソン(CTRX)100mg/kg/dayを開始となった。呼吸状態は、モニター上問題なく経過したが、意識レベルの低下もあり、挿管され呼吸器管理となった。転院後第7病日の髄液検査では多核球優位の細胞数増加を認め、第8病日には起因菌がListeria monocytogenes と確定したため、CTRX中止となった。その後、意識状態の改善も認め、第9病日に人工呼吸器から離脱、抜菅以後神経症状も改善し、第36病日に退院となった。

リステリア属の中で病原性を有するものはL. monocytogenes のみであり、L. monocytogenes は人畜共通感染症を引き起こすグラム陽性桿菌で、主に1か月以下の新生児、妊婦、60歳以上の高齢者や細胞性免疫不全患者に髄膜脳炎、菌血症を引き起こす1)L. monocytogenes による髄膜炎は1958年に報告されて以降年間80例程度報告されている。健常人でも一過性に発熱を伴う胃腸炎を発症することがあり、健常小児でも発症する例があるが、多くは髄膜炎として発症する。また、小児リステリア髄膜炎では下痢を認める例は21%程度であるとの報告もある2)

多くは土壌、腐敗した植物、水、多くの哺乳動物の便など自然界に広く分布しており、生野菜、生乳、乳製品、生冷凍・加工肉などの15~70%に分離され、きわめて日常的に摂取される菌体である1)

本邦におけるリステリア症の罹患率は1.06~1.57/100万人で、その症例の3/4以上が高齢者であるが、乳児以外の小児期発症例も散見される3)。帝京大学の報告では、化膿性髄膜炎のうち、6歳未満の乳幼児での髄膜炎の起因菌でL. monocytogenes が原因であったものは1.4%との報告もある4)

2009~2010年における小児細菌性髄膜炎の発生動向では、慶應義塾大学の調査によると、小児細菌性髄膜炎数は314例であり、そのうちL. monocytogenes によるものは3例であった5)。この調査結果に関しては、肺炎球菌ワクチン、Hibワクチン導入前の調査であり、また、本年の小児科学会誌には愛知県での単年度での4例報告もあり6)、従来まれであったL. monocytogenes による髄膜炎が増加傾向にあるとも考えられた。

 
参考文献
  1. 感染症専門医テキスト 2011より改編
  2. 多胡久美子, 他,小児感染免疫 20: 8-14, 2008
  3. 山根一和, 他, IASR 33: 247-248, 2012
  4. 藤井良知, 他, 感染症学雑誌 60: 592-601, 2012
  5. 新庄正宜, 他,感染症学雑誌 85: 582-592, 2012
  6. 波田野ちひろ, 他, 日本小児科学会雑誌 118: 661-664, 2014
 
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