国立感染症研究所

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病院内冷却塔からのレジオネラ感染疑い事例―福岡市

(IASR Vol. 36 p. 13- 14: 2015年1月号)

はじめに
2013年7月、南保健所へ発生届があったレジオネラ症について、患者利用施設等の調査を行ったところ、患者喀痰および患者利用施設(医療機関A)の冷却塔冷却水からLegionella pneumophila 血清群(SG)1が検出された。

探知および調査結果
7月8日、南保健所健康課が医療機関Bからレジオネラ症発生届を受理した。

患者(70歳男性)は、基礎疾患である統合失調症および間質性肺炎のため長期入院していた。7月6日に発熱し、肺炎症状を呈したため、医療機関Aから医療機関Bへ7月8日に転院、尿中抗原検査の結果、同日レジオネラ症と診断された。

7月9日、患者調査および患者が長期入院していた医療機関Aにおいて、入院患者の健康観察ならびにレジオネラ症との関連が疑われる施設調査(冷却塔および入浴設備等)を行った。

(1)患者調査および健康観察
医療機関Bにて患者喀痰を採取し、培養検査を行ったところ、L. pneumophila SG1が検出された。

患者は、医療機関Aに入院しており、自力歩行が困難な要介護状態で、発症前2週間において個室に入室し、外出することはなかった。医療機関Aでの入浴にはシャワー、昇降式入浴設備を利用していた。

また、患者の入院する医療機関Aの病棟では、6月以降、発熱患者が散発(6月に16名、7月に15名)しており、同病棟に勤務する職員の中にも4名の発熱者がいることが判明した。

このため、当該患者を除く発熱患者6名の喀痰検査および18名の尿中抗原検査を実施したが、いずれもレジオネラ属菌陰性であった。

(2)施設調査
レジオネラ属菌の曝露の可能性が考えられる冷却塔、入浴設備および空調設備について、調査を実施した。検査結果は表1の通り。

① 冷却塔:施設には開放式冷却塔が計3基設置されている。2基の冷却塔冷却水からL. pneumophila SG1が検出されたが、冷却塔の設置場所および患者病室の窓の形状から、室内に冷却水のミストが入り込む可能性があった。

② 昇降式入浴設備:施設が2013年4月に新規導入したばかりの昇降式入浴設備(気泡発生装置付き)は、人を担架に寝かせたまま入浴できる設備で、当該患者の入院病棟の浴室にのみ設置されており、気泡発生管の内部が分解洗浄できないなど、循環部分の洗浄消毒がしにくい構造であった。

③ 空調設備:各部屋では天井パッケージ型エアコンに取り込まれた室内空気が熱交換により冷却される。外気の取り込みはない。

(3)L. pneumophila SG1の遺伝子解析
検出したL. pneumophila SG1のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子解析を行った結果、2階系統冷却塔冷却水由来の1株が、患者喀痰由来株の遺伝子タイプと100%一致した(図1)。

なお、上記の遺伝子タイプが一致した2株について、SBT(sequence based-typing)法による遺伝子解析を実施した結果、いずれの株もST23と判明した。

まとめ
今回、レジオネラ症発生届のあった患者については、医療機関に長期入院し、潜伏期間中の移動もないことから、院内で感染したものと考えられる。院内のレジオネラ症発生に関連が深いと考えられる施設(冷却塔および入浴設備等)について調査したところ、冷却塔の冷却水から患者喀痰と同じ遺伝子型のL. pneumophila SG1が検出された。

ST23は、国立感染症研究所のレジオネラ・レファレンスセンターに収集された国内の臨床分離株の中で現時点で最も多いSTである。茨城県(2000年)および宮崎県(2002年)でおきた循環式浴槽を感染源とした大規模集団感染事例の原因菌のSTだが、通常の浴槽水および冷却塔水の検査で分離されたことはほとんどない。

病院に対しては施設特性を鑑み、冷却塔の維持管理方法を改善するよう指導した。その結果、冷却塔への薬剤自動注入器の設置および清掃時のバイオフィルム除去対策が実施され、定期的な自主検査において陰性が確認されている。

なお、同じ病棟で同時期に散発していた発熱患者とレジオネラ症発生との関連については不明である。


福岡市保健環境研究所
  松田正法*1 重村久美子 徳島智子        
  吉田英弘*2 佐藤正雄         
(*1 現福岡市南区保健福祉センター *2 現福岡市食肉衛生検査所)   
福岡市南区保健福祉センター(南保健所)   
  廣瀬みよ子 門司慶子 石津尚美 竹中 章  
国立感染症研究所細菌第一部 前川純子

 

 

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