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複数回にわたり感染源と疑われた日帰り入浴施設のレジオネラ属菌検査と衛生指導―奈良県

(IASR Vol. 37 p.206-208: 2016年10月号)

はじめに

2012~2014年にかけて, 奈良県内で発生したレジオネラ症患者のうち, 3名が共通の日帰り入浴施設を利用していた。患者発生時のレジオネラ属菌検査と, その後の施設の衛生指導について概要を報告する。

患者および施設の概要

2012年4月(事例1), 2013年6月(事例2)および2014年11月(事例3)の3度にわたり, 共通の日帰り入浴施設を利用したレジオネラ症患者の発生届が提出された。患者はいずれも70代~80代の男性で, 主な症状は発熱, 肺炎, 呼吸困難, 意識障害等で, 尿中の病原体抗原の検出によりレジオネラ症と診断された。

当該施設は, 平日約750人, 休日1,000人以上が利用する日帰り入浴施設で, 温泉水(ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉)を使用しており, 循環2系統, 浴槽数14を有していた。衛生管理では, 配管の洗浄消毒を年2回, スケール除去は年3~4回, ろ材の交換は年3回, 浴槽水のレジオネラ属菌検査を年12回行っていた。

レジオネラ属菌検査

事例1では, 浴槽水5検体について培養法で検査を行った。浴槽水の残留塩素濃度は総じて高く, すべて1.0mg/L以上あったが, 打たせ湯から2 cfu/100mLのLegionella pneumophila 血清群(SG)1を検出した()。

事例2では, 浴槽水10検体について培養法で検査を行い, 岩風呂から1 cfu/100mLのL. pneumophila SG1を検出した。岩風呂は残留塩素濃度が, 0.09mg/Lと低かった。その他の検体中, 6検体は1.0mg/L以上と高濃度であった。

事例1, 事例2より, 高濃度の残留塩素による一時的なレジオネラ属菌の生菌数低下の可能性が考えられた。そこで, 死菌でのレジオネラ属菌の存在確認のため, 事例3ではLAMP法による検査も並行して行った。浴槽水5検体について検査を行い, 培養法で, 寝湯, 泡風呂からそれぞれ1 cfu/100mLのL. pneumophila SG1を検出し, LAMP法では主浴槽, 泡風呂および日替り風呂で陽性となった。LAMP法でのみ陽性となった検体には, 残留塩素濃度が2.2mg/L以上の浴槽水が存在した。

施設への衛生指導

事例1~3の結果, 混雑時等の残留塩素濃度低下時に感染の危険性が高まること, さらに配管内にレジオネラ属菌が存在し, 継続的な汚染の原因になっている可能性を考え, 保健所による施設の衛生指導が行われることになった。

通常の配管の洗浄消毒の効果を確認するため, 次亜塩素酸ナトリウム(10mg/L)で洗浄消毒した後, 事例3でレジオネラ属菌1 cfu/100mL以上, もしくはLAMP法陽性であった3カ所(寝湯と泡風呂は連結)の浴槽および集毛器について, 拭き取り検査を行った(事例4)ところ, 培養法で日替り風呂が, LAMP法で日替り風呂, 寝湯が陽性となった。さらに, 事例1以降に分離したL. pneumophila SG1計5株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子解析を行った()。サイズマーカーにはPulseNet Standard StrainであるSalmonella Braenderup H9812のXbaI切断を使用した。この結果, 4株でパターンが一致し, 2012年以降同一の菌株により汚染が継続していることが示唆された。

当該施設は, 配管の洗浄消毒, スケール除去を定期的に実施していたが, 十分な効果が得られていなかったことがうかがえた。洗浄消毒に使用している次亜塩素酸ナトリウムの効果が低い原因として, pHを疑問視し, 浴槽水について, pHを測定したところ, 8.7, 8.6など, 複数で高い値を示した。そのため, 泉質がアルカリ性であることを考慮し, 消毒剤をアルカリ性でも効果の高い二酸化塩素に変更した。洗浄消毒の後, 事例4と同一浴槽の浴槽水およびその排水溝の拭き取り検査を行った(事例5)ところ, 6検体すべて, 培養法<1 cfu/100mLまたは陰性, LAMP法も陰性となった。

まとめ

今回, 数年にわたり, レジオネラ症の感染源調査として, レジオネラ属菌検査を行い, そのつど, 公衆浴場法における基準値以下ではあるが, レジオネラ属菌を検出していた入浴施設において, 衛生面での指導の必要性を鑑み, 管轄保健所の協力のもと, 衛生指導に係る検査を行った。そこで, 継続的なレジオネラ属菌による汚染を示唆する結果より, 洗浄消毒の効果を疑問視し, pH測定により適切な消毒剤に変更した。洗浄消毒後の検査により, レジオネラ属菌の除去を確認し, 泉質に応じた消毒剤の選択の重要性が明らかになった。

今後も, レジオネラ症感染防止のため, 県内保健所との協力体制を築きつつ, 施設の衛生管理に役立つ, 指導状況に応じた検査を行っていく必要がある。

奈良県保健研究センター
 吉田孝子 橋田みさを 堀 重俊 大前壽子
奈良県中和保健所
 松岡久嗣 上山江美子 佐羽えみ 田中 尚

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