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国立感染症研究所 感染症疫学センター
2021年11月4日現在
(2021年12月8日一部改訂)

レジオネラ症は細胞内寄生性のグラム陰性桿菌であるレジオネラ属菌(Legionella)による感染症である1。レジオネラ属菌を含んだエアロゾル(感染性エアロゾル)や、土壌の粉塵の吸入が主な感染経路とされており、冷却塔、入浴施設、建設現場等で使用される機械、配管システム、医療機関における人工呼吸器の使用、園芸・農業、津波災害等に関連した症例や集団発生の報告がある2。ヒトからヒトへの感染はないとされている2。病型は肺炎型と感冒様のポンティアック熱型に大別される1。感染のリスク因子として、年齢(50歳以上)、慢性呼吸器疾患、喫煙、免疫不全等が指摘されている2

レジオネラ症は感染症法に基づく4類感染症全数把握疾患であり、1999年4月から対象疾患に追加された3。本まとめでは、2011年第1週~2021年第35週に報告された症例を集計した(2021年11月4日時点)。人口情報は、各年の総務省統計局人口推計を使用した4

レジオネラ症報告数は、夏と秋に多く冬に少ない季節性がみられる(図1)。月別では7,9,10月の報告が多い(図1)。2014~2019年にかけて、最多の月別報告数は経年的に増加した(図1)。また2020年と2021年(第1~35週)は、2018年と同程度の報告数であった(図1)。

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年間報告数は2011~2019年にかけて経年的に増加した(表1)。2020年の報告数は2,059例、人口10万人当たり年間報告数は1.64であり、2019年(同2,316例、1.84)より減少した(表1)。2021年第1~35週の報告数は1,308例、人口10万人当たり報告数は1.04であり、2019年第1~35週の報告数(同1,525例、1.21)より減少した。40~64歳、65歳以上における報告数の推移もおおむね同様で、2011~2018・2019年にかけて増加し、2020年に減少した(表1)。

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報告数は40代以降に多く、50歳以上が92.7%を占めた(図2)。20代以降の全年代において男性の報告が多く、人口10万人当たり報告数も男性が女性より多い(図2)。年齢分布は性別で異なり、男性は60代が多く(年齢中央値67歳、四分位範囲59~76歳)、女性は80代が多かった(同80歳、69~87歳)。人口10万人当たり報告数は、男女ともに高齢になるほど増加した(図2)。

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病型は肺炎型が94.8%(15,973例/16,841例)、ポンティアック型が4.3%(726例)、無症状病原体保有者が0.8%(142例)であり、肺炎型が大半を占めた。症状は、発熱が15,406例(91.5%)、咳嗽が6,924例(41.1%)、呼吸困難が5,792例(34.4%)、意識障害が2,632例(15.6%)、下痢が1,730例(10.3%)、腹痛が386例(2.3%)報告された(重複あり)。届出時多臓器不全は1,332例(7.9%)報告された。届出時死亡は229例(1.4%)であり、65歳以上(182例/8,200例、1.7%)が40~64歳(41例/5,460例、0.7%)より多かった。

診断方法は、尿中抗原の検出が16,085例(全報告に占める割合:95.5%)と大半を占め、その他の検査診断方法は病原体遺伝子の検出(PCR法・LAMP法)602例(3.6%)、分離・同定382例(2.3%)、抗体検出151例(0.9%)等であった。なお、LAMP法による病原体遺伝子の検出は2011年10月に保険適用となり、2016年11月に4類感染症としてのレジオネラ症届出基準に追加された。同法により診断された報告は、2017年が62例(同年報告に占める割合:3.6%)、2018年が62例(2.9%)、2019年が63例(2.7%)、2020年が58例(2.8%)であった。なお、各年報告に占める尿中抗原の検出により診断された症例の割合は、2015年以降95%以上であった。複数の検査法により診断されているものは、それぞれ集計した。

感染原因・感染経路(確定・推定)は、水系感染が5,465例(全報告に占める割合:32.5%)、塵埃感染が953例(5.7%)報告された(重複あり)。

レジオネラ症報告数は2011~2019年にかけて増加し、新型コロナウイルス感染症流行が始まった2020年は2019年の約90%に減少した。2019年にかけての増加や2020年の減少が、実際の症例発生の増減を反映したものかどうかを評価するためには、感染原因・感染経路、総検査数や検査陽性率等の検討が重要である。なお、LAMP法による遺伝子検出が2016年に届出基準における検査法として追加されたが、この変更以降に同法による診断例の増加はみられなかった。2020年以降の新型コロナウイルス感染症流行が、患者の医療機関への受診行動や医療機関における診断に影響を及ぼし、レジオネラ症報告数が減少した可能性もある。重症例は、軽症例と比較してそのような影響はうけにくいと考えられるが、届出時死亡数は2017~2019年が16~30例(各年の報告数に占める割合:0.9~1.4%)、2020年が20例(1.0%)、2021年が12例(0.9%)であり、また、多臓器不全を呈した症例数(割合)は2017~2019年が134~166例(7.2~7.7%)、2020年が137例(6.7%)、2021年が92例(7.0%)であった。死亡例や重症病型である多臓器不全の症例の割合が2020年以降に増加していないことから、患者の受診行動の変化等によるサーベイランスバイアスを示唆する傾向は見られないと判断した。新型コロナウイルス感染症の流行以降、マスク着用の頻度が増えたこと、温泉等の入浴施設利用が減ったことにより、レジオネラ症患者が微減した可能性がある。

レジオネラ肺炎と、その他の細菌性肺炎、特に肺炎球菌性肺炎の臨床像は似ている2。いずれも飛沫感染の感染経路をとるが、レジオネラ症は環境中の感染性エアロゾル吸入により感染し、肺炎球菌感染症は唾液等を通じてヒトからヒトへ感染する2。新型コロナウイルス感染症の流行以降、レジオネラ症報告数は約10%減少し、侵襲性肺炎球菌感染症の報告数はより大きく減少した5。新型コロナウイルス感染症に対する、3つの密を避ける感染対策は、ヒトからヒトへの飛沫感染経路をとる感染症予防に対して特に効果があり、2疾患の報告減少率が異なった可能性がある。

レジオネラ症のリスク因子として年齢(50歳以上)が指摘されており2、高齢化が進む日本では、今後、患者が増加していく可能性がある。特に高齢男性は報告が多く、職業曝露等との関連が考えられ、この集団の発生動向を注視する必要がある。また、感染性エアロゾルを発生しうる環境要因の分析を進め、対応・対策を強化していくことが重要と考えられる。

 
【参考文献】
  1. IASR 34: 155-57, 2013
  2. Cunha BA, et al., Legionnaires' disease  Lancet 387 (10016): 376-85, 2016
  3. 厚生労働省.感染症法に基づく医師の届出のお願い(レジオネラ症)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-39.html
  4. 総務省統計局, 人口推計
    https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html
  5. 侵襲性肺炎球菌感染症の届出状況, 2014年第1週~2021年第35週
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/pneumococcal-idwrs/10779-ipd-211126.html

【訂正】
届出時多臓器不全の症例数を追記し、各診断方法の症例数を訂正しました(2021年12月8日)

 


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