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2021年に沖縄県で発生したヒトのレプトスピラ症

(IASR Vol. 43 p118-119: 2022年5月号)

 

 レプトスピラ症は, 病原性レプトスピラの感染によって起こる急性熱性の人獣共通感染症である。本県での年間患者報告数は全国の約半数を占めるため, その動向には注意が必要である。レプトスピラ症が2003年に4類感染症に指定されて以来, 2016年に最多の43例が報告された。以降は減少傾向にあったものの, 2021年は直近5年で最多の24例が確認され, また, 宮古地域での感染も初めて確認されたことから, 2021年の患者発生状況の概要を報告する。

 2021年1~12月にレプトスピラ症が疑われた34例の血液, 尿および髄液のうち採取できた検体に対して, PCRによる遺伝子検出, 抗体検出または菌分離を実施したところ, 24例(70.5%)がいずれかの方法で陽性となった。患者発生は7月に4例, 8月に9例, 9月に7例, 10月に4例確認され, 夏季に集中していた。患者の年齢は, 8~85歳と幅広く, 特に50歳未満が全体の87.5%を占めていた(年齢中央値31.5歳)。患者の性別は, 男性21例(87.5%), 女性3例(12.5%)であった。推定感染地域は, 八重山地域21例(87.5%), 宮古地域2例(8.3%), 沖縄本島南部地域が1例(4.2%)であった。推定感染機会は河川でのレジャー・労働20例(83.3%), ネズミとの直接・間接接触が3例(12.5%), 河川以外での淡水との接触1例(4.2%, 洞窟探検ツアー)であった。河川での労働9例全例がレジャーガイドであった。

 臨床症状は, 発熱23例(95.8%), 頭痛16例(66.7%), 結膜充血13例(54.2%), 腎機能障害11例(45.8%), 肝機能障害10例(41.7%), 胃腸炎10例(41.7%), 筋肉痛8例(33.3%), 関節痛8例(33.3%), 黄疸2例(8.3%)であった。発熱を呈した患者には平均39.5℃の高熱が認められた。また, 抗菌薬投与後のJarisch-Herxheimer反応が1例(4.2%)認められた。

 陽性となった24例中23例(95.8%)がPCRにより陽性となり, そのうち血液と尿両方陽性が11例, 血液のみ陽性が7例, 尿のみ陽性が5例であった。髄液は2例から採取され, 1例が陽性であった。菌分離は24例中19例(79.2%)が陽性となった。血液接種コルトフ培地からは, 24例中19例(79.2%)で菌が分離されたが, 尿20検体および髄液1検体から菌は分離されなかった。また3例でペア血清が採取でき, 全例で顕微鏡下凝集試験(MAT)による抗体検出が陽性となった。ペア血清を用いたMATあるいは分離株の解析により, 感染血清群はHebdomadis 6例(27.3%), Grippotyphosa 6例(27.3%), Sejroe 3例(13.6%), Pyrogenes 1例(4.5%), Autumnalis 1例(4.5%)と同定された〔5例(22.7%)は交差反応のため同定不能〕。

 宮古地域で10月に発生した陽性例2例は, 60代と80代の男性であった。1例目の男性は, 自宅でネズミ捕りに捕捉されたネズミによる咬傷, もしくは裸足での農作業により感染したと推定された。2例目の男性は普段からの農作業, もしくは自宅でのネズミとの接触により感染したと推定された。PCRでは2例中1例が陽性であった。ペア血清を用いたMATによる抗体検出では, 2例とも複数血清群陽性であった。当所で血液を接種したEMJH培地からは, 2例とも菌は分離されなかった。PCR陽性であった1例のflaB遺伝子増幅産物のシーケンシングを実施したところ, Leptospira interrogansと同定された。

 2021年における本県のレプトスピラ症の感染機会は, これまで同様, 河川でのレジャー・労働による割合が高かった。これは県内症例24例中21例を占める八重山地域で, 河川でのレジャーを感染機会とする患者が多いためであり, 今後も河川を利用する人へ注意喚起を続けていく必要がある。

 宮古地域では1996年に海外を感染源とする輸入感染例が報告1)されているが, 2003年に4類感染症に指定されてからは, 今回の2例が地域内での感染が推定される初めての報告である。宮古島内には地形的に大きな川が存在しないため, 八重山地域と比べ河川でのレジャーによる感染リスクは少ないと考えられる。しかしながら, 宮古島内でも過去に犬の抗体保有調査において陽性例が報告2)されており, また当所の調査により猫2頭からMATにより抗体が検出され(血清群Javanica, unpublished data), ネズミから菌が分離されている(血清群Javanica, unpublished data)ことから, 以前より動物間での感染環が存在していたと考えられる。

 近年, 八重山地域, 本島北部地域では河川でのレジャー・労働が感染機会の大部分を占めており3), 河川での感染に注目が集まりがちだが, 河川以外での感染も見逃さないことが重要である。また宮古地域は, つつが虫病の発生が県内で唯一報告されている地域でもあり, つつが虫病への関心が高い。レプトスピラ症の臨床症状は多彩であり, つつが虫病と類似した症状が認められることもあるため, 類症鑑別が難しい。今回の宮古地域での1例目の患者は, 医師の判断によりつつが虫病とレプトスピラ症の両方の検査依頼が出されたため, 見逃されることなく検出することが可能となった。

 宮古地域での感染が初めて確認されたことで, ヒトレプトスピラ症の河川以外での感染リスクの重要性が改めて示された。

 

参考文献
  1. 大城直雅ら, IASR 17: 74, 1996
  2. 與那原良克ら, 沖縄県公害衛生研究所報 第26号: 31-34, 1992
  3. Kakita T, et al., PLOS Negl Trop Dis15(12): e0009993, 2021

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