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沖縄県外で発生した淡水でのレクリエーションによるレプトスピラ症, 2016年

(IASR Vol. 38 p.42-43: 2017年2月号)

レプトスピラ症は, 病原性レプトスピラの感染によって引き起こされる人獣共通感染症である。河川等の淡水のレクリエーションでレプトスピラに感染することは広く知られているが, 沖縄県以外からの報告は稀である (IASR 37: 103-105, 2016)。

 2016年は沖縄県以外の河川あるいは用水路でのレクリエーションが原因と考えられるレプトスピラ症が5例発生した()。患者は10代が3名, 30代が2名で, 全員が男性であった。静岡県の2例(症例1, 2)は浜松市の異なる河川での事例であるが, 鹿児島県の2例(症例3, 4)は同一日に同一の用水路で遊んで感染したと考えられた。また奄美大島の症例(症例5)は, 旅行者が島内の河川で遊んだ後居住地(大阪市)で発症した事例であった。潜伏期間は1~2週間程度であった。

5症例の初診時の臨床症状としては全例に発熱が認められ, 次いで頭痛4例, 悪寒2例, 眼球結膜充血2例, 嘔吐・嘔気2例, 咳2例などが認められた。症例2で髄膜刺激徴候が認められた。また血液検査データではCRPが全例で基準値以上となっており, 他にT-Bil, AST(GOT) が4例, ALT(GPT)が2例で基準値を超えていた。尿検査ではタンパク尿が3例でみられた。全例が入院加療を要した。

実験室診断はすべての症例でペア血清による抗体上昇が確認された。推定感染血清群はHebdomadisが4例, Autumnalisが1例であった。DNA検出は4例で行われたが1例のみ髄液陽性となり, 塩基配列決定によりLeptospira interrogansと同定された。

河川等の淡水でのレクリエーションによるレプトスピラ症については, 沖縄県での発生が広く認識されているが, それ以外の地域ではほとんど報告がない。今回の静岡県の1例(症例2)は過去にもトライアスロン大会で1例の患者が報告された河川と同じであったが(IASR 35: 16, 2014), それ以外はこれまでにレプトスピラ感染が報告されたことのない地域であった。今回の5症例はすべて入院を要したものの, 黄疸がみられた症例は1例, 出血や急性腎不全を呈した症例はなく比較的軽症であると考えられた。したがって, 沖縄県以外でも河川などの淡水中でのレクリエーションによりレプトスピラに感染するリスクがあることを念頭に, 水遊び後の発熱患者の診療にあたることが重要と考えられた。また本年は沖縄県への旅行者が河川で遊んだ後県外の居住地に戻ってから発症した事例が9例(西表島7例, 本島1例, 小浜島1例), 海外の河川で感染したと考えられる事例が2例(タイ, ミャンマー)あり, 沖縄県あるいは東南アジア帰りの発熱患者についても, その行動様式からレプトスピラ症を積極的に疑うことが重要である。


国立感染症研究所 小泉信夫 齊藤剛仁 大西 真
浜松市保健環境研究所 佐原 篤 土屋祐司
鹿児島県環境保健センター 中堂園文子 大坪充寛
大阪市立環境科学研究所 中村寛海 長谷 篤 小笠原 準

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