国立感染症研究所

IASR-logo

<速報>エボラ出血熱流行地からの帰国者における熱帯熱マラリア症例

(掲載日 2014/12/22) (IASR Vol. 36 p. 1- 2: 2015年1月号)

2014年のリベリア・ギニア・シエラレオネを中心とする西アフリカでのエボラ出血熱(EVD)の流行は、世界保健機関などによる国際的な支援にもかかわらず、なかなか収束の気配をみせていない。流行地域に滞在歴のある発熱患者には、EVDの可能性も念頭に置いた診療が必要と考えられる。しかし、これまで、EVDをはじめとしたウイルス性出血熱の診断・診療手順は定まったものがなかった。当センターでは、平成26(2014)年10月24日付けで厚生労働省結核感染症課から「エボラ出血熱の国内発生を想定した医療機関における基本的な対応について」の依頼通知(11月21日改訂)が発出されるまでの間、平成25年度厚生労働科学研究費補助金「我が国における一類感染症の患者発生時に備えた診断・治療・予防等の臨床的対応および積極的疫学的調査に関する研究班(以下、研究班)」作成のウイルス性出血熱–診療の手引き–(第1版)における診断アルゴリズムを参考に、当院の状況に合わせ、EVDが疑われる患者に対応するフローチャートを作成し、診療に用いてきた。当時、上述した依頼通知が発出される以前の8月に、リベリアから帰国後に発熱・水様便を呈し救急搬送となり、熱帯熱マラリアと診断された症例を経験した。実際に患者対応した上での注意点等について記載する。

症例は高血圧症・糖尿病を基礎疾患に有する男性、201X年よりリベリア共和国に滞在していた。黄熱予防接種を受けていたが、マラリア予防薬は内服していなかった。現地では蚊に刺されることも多かった。EVD流行による退避勧告を受けて、8月に帰国した。帰国の際、空港の検疫所に立ち寄り、発熱時の対応について指示を受けていた注1)。帰国11日後に発熱と水様便を1回認めたため、夜間に救急要請し、当院に搬送された。来院時のバイタルサインは体温39.1℃、心拍数83回/分、呼吸数21回/分、血圧138/69 mmHgであった。SpO2は室内気で98%と保たれていた。意識は清明で、身体所見上も明らかな異常を認めなかった。

本症例では発症21日以内にエボラ出血熱流行地域に滞在歴があり、診察時に38℃以上の発熱を認めたが、EVD患者もしくは疑い例、遺体との接触歴はなかった。患者がEVDである蓋然性は高くないが、否定はできない症例と考えられたため、他の患者との接触を避けるために、前室のある救急外来陰圧個室で診療を行うこととした。嘔吐や出血症状はないが、下痢を伴っているため、アイガードを含めた飛沫予防策に加えて、接触予防策も適用した。

血液検査は、血算、生化学、マラリアの診断検査を行った。検体は耐漏洩性パウチに入れて検査部に持参し、気送管の使用は避けた。あらかじめ連絡を受けていた当直臨床検査技師により、血算、生化学検査は通常の検体と同様に実施された。

マラリアの診断検査については、安全キャビネット内で迅速抗原検査(BinaxNOW Malaria)をまず実施したところ、熱帯熱マラリア原虫に対する陽性反応が認められた。次いで末梢血を薄層塗抹したスライドグラスをメタノール固定後に安全キャビネットから外来検査室に搬出した。ギムザ染色を行い、鏡検を行ったところ、熱帯熱マラリア原虫が確認されたため、熱帯熱マラリアと確定診断した。患者は一般病棟個室に入院とし、接触予防策を継続しながら、経過を観察した。アトバコン・プログアニル合剤による治療が開始され、入院18日目に合併症なく治癒し、退院となった。

実際の患者対応にあたり、以下のような点が重要であると考えられた。

(1)対応にあたる医療従事者
患者に接触する医療従事者は最小限にするのが望ましいが、診察・採血や検体搬送、マラリア検査などを行うには複数の医療従事者が必要である。今回は医師2名が診察、採血、マラリア検査を行ったが、後述する個人防護具の着用状況を相互に確認しながら診療できるなど、安全面でも複数の医療従事者の関与が望ましいと考えた。患者の状態が悪ければ、より多くの人手が必要となる可能性もあり、特に夜間・休日の人員確保について、疑似症を含むEVDの患者を受け入れる第一種感染症指定医療機関等では、事前に計画を立てておく必要がある。また、医師・看護師以外に臨床検査技師や放射線技師を含め、検体の搬送手順等について事前に訓練を行っておくことが望ましい。

(2)個人防護具(PPE)
EVDは患者血液・体液との直接接触で感染する。結膜などの粘膜からの感染事例もあるため、採血や検体スピッツへの分注などの血液が飛散することが予想される場合には、アイガード(ゴーグルまたはフェイスシールド)を常に着用するのが良い。嘔吐や下痢等の患者の症状に応じて、速やかに適切な予防策がとれるよう、日常から個人防護具を診察室に使用しやすく配置することも重要である。なお、現在はこのような患者は疑似症として対応するため、当院のマニュアルに従い、フルPPEを初診時から着用している。

(3)マラリアの重要性
現在のEVD発生地は熱帯熱マラリアの高度流行地と重なっているため、熱帯熱マラリアをまず否定することが重要である。熱帯熱マラリアの診断・治療の遅れは予後を悪化させるため、早期の診断が欠かせない。末梢血塗抹標本を作成する際は切創事故やエアロゾル発生のリスクがある。安全キャビネット内で作業を行うなど、バイオセーフティに留意した対策が必要である。メタノール固定後は感染性が消失したとみなせるため、通常通り染色と鏡検を行った。本症例のように、より安全に実施ができ、熱帯熱マラリアに対して感度の高い迅速診断キット(研究用試薬)でまずスクリーニングすることも有用であると考えた。

なお、本症例では、確定診断されたマラリアが発熱の原因であることが明らかであり、EVDへの接触歴がないこと等から、EVDの重複感染の可能性を否定した。また、上述した平成26年10月24日付け通知の発出以降には、発熱とEVD流行地域への渡航歴が確認できた場合は、エボラ出血熱疑似症患者として保健所へ届出を提出し、検体採取は行わない方針としている。

西アフリカにおけるEVDの流行は現在も続いており、現在のわが国では、流行国からの帰国者が医療機関を直接受診しないような検疫体制の強化が行われているため、本症例のようなEVDの疑いのある患者の診療を行う可能性は低い注2)。夜間や休日に来院した患者に対しても、事前に対応の手順を準備しておくことが、職員への二次感染防止において重要である。研究班が提案しているように、自施設における対応を複数部門で理解するための診断アルゴリズムの準備は必須と考えられた。また、EVD流行地域は熱帯熱マラリアの高度流行地域でもあることから、診療にあたり熱帯熱マラリアの検査・診断が遅れないよう注意する必要があることを改めて認識させられた。本事例の経験後、院内のPPE訓練では検査部門や他科からも積極的な参加がある。この報告が今後の国内医療機関における診療の一助となれば幸いである。

注1) 検疫所においては当時、流行国からのすべての帰国者・入国者に対して健康監視カードを配布し、発熱時には保健所に連絡を行うよう指導を行っていた。
注2) 検疫所においては現在、流行国からの帰国者・入国者で健康監視の対象となる者に対し、検疫官が、一般の医療機関を直接受診しないことを明記した健康監視対象者用指示書を配布し、十分に説明を行っている。
 
国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター    
  篠原 浩 堀 成美 忽那賢志 小林鉄郎 山元 佳 藤谷好弘 馬渡桃子 竹下 望
  早川佳代子 金川修造 大曲貴夫 加藤康幸
 

 

最終更新日 2016年2月04日(木曜)18:17

参照数: 8159

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version