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ワクチンを2回接種していたにもかかわらず曝露により麻疹を発症した医療従事者の2例

(IASR Vol. 40 p48: 2019年3月号)

このたび, 一般社団法人日本環境感染学会編 「医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版」1)(以下ワクチンガイドライン)に基づき, 適切にワクチンプログラムを実施していたにもかかわらず, 麻疹患者の診療を行った医療従事者2名が麻疹に感染した事例を経験したため報告する。

発端となった患者は20代女性。2018年11月14日より発熱, 結膜充血, 咳嗽があり, 11月18日に前医を受診, 11月19日に麻疹と確定診断され, 全身状態も不良のため, 当院に紹介入院となった。中耳炎の合併があったが, 入院加療により軽快し, 11月28日に退院となった。

症例1:20代女性医師

担当医として, 問診, 身体診察を行った。サージカルマスクは常時着用し, 手指衛生も適切に実施していた。麻疹ワクチン接種歴は2回あったが, 入職前の2017年2月の時点で麻疹IgG(EIA)6.6であり, 2017年4月に麻疹風疹混合ワクチンを接種した。2017年7月の時点で麻疹IgGが12.7とまだ基準に満たなかったため, 2017年10月に麻疹単独ワクチンを接種した。

発端患者と最初に接してから11日目の11月29日より咽頭に違和感あり。12月1日より最高38.7℃の発熱, 12月4日, 5日は欠勤し近医を受診。12月5日に口腔内にコプリック斑および体幹に皮疹を指摘された。全血, 尿, 咽頭ぬぐい液の3検体のPCR検査で, 麻疹ウイルスが検出された。

症例2:20代女性医師

同じく担当医として, 問診, 身体診察を行った。サージカルマスクは常時着用し, 手指衛生も適切に実施していた。麻疹ワクチン接種歴は2回あり, 2017年8月の時点で麻疹IgGは17.3であった。発端患者と最初に接してから17日目の12月5日より最高37.5℃の発熱, 頭痛が出現した。曝露歴があったためこの時点で麻疹を疑い12月6日に検査を実施したところ, 全血のみPCR検査で麻疹ウイルスが検出されたが, 尿, 咽頭ぬぐい液は陰性であった。経過中, 明らかな皮疹やコプリック斑は認めなかった。

対 応

両名が症状出現2日前から出入りした部署および症例1が受診した近医について接触者リストを作成した2)。合計254名をリストアップし, うち245名に麻疹抗体検査を行った。接触者には必要に応じてγグロブリンの投与, 麻疹ワクチンの接種を行った。合計5病棟において一時的に新入院を停止し, 患者移動や面会の制限を実施した。最終的に3週間後の12月26日の時点で新たな発症者は認めず, 対応を終了した。

考 察

症例1は入職時に抗体価が基準に満たなかったため, 入職後に計2回, 麻疹ワクチンを接種していた。2回目の接種は今回発症の13カ月前であった。また, 症例2は今回発症の15カ月前のIgGは17.3であり, 両名ともワクチンガイドラインで推奨されている基準を満たしていた。特に症例2は修飾麻疹と考えられた。多くはないが, 文献的にも複数回の麻疹含有ワクチンを接種していた医療従事者の麻疹感染の事例があることが知られている3)。今回の事例を受け, 当院においてはワクチンガイドラインの基準を満たしていても, 麻疹確定例および疑い例の診療に携わる際には全員, N95マスクを装着することとした。当院では医師, 看護師のみならず, 患者に接するホスピタルヘルパー, クラークなどの職員にも採用時抗体検査を実施し, 適切にワクチンプログラムを実施している。ただ, 外部委託職員は全員には実施できておらず, 今後の課題である。

 

参考文献
  1. 一般社団法人 日本環境感染学会, 医療関係者のためのワクチンガイドライン(第2版), 環境感染誌 29(Suppl.Ⅲ), 2014
  2. 国立感染症研究所 感染症疫学センター, 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第7版), 2018年5月
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/medical_201805.pdf
  3. Hahne SJ, et al., J Infect Dis 214: 1980-1986, 2016

 

大阪市立総合医療センター感染症内科
 白野倫徳 小西啓司 麻岡大裕
同 医療安全管理部 院内感染対策室
 今﨑美香 山口尚美 天羽清子
同 小児救急科 外川正生

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