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2019年1月に発生した大阪府内における麻疹集団感染事例の概要と対応

(IASR Vol. 40 p124-126:2019年7月号)

集団感染事例の概要

X保健所事例(図1

X保健所管内在住の40代男性(患者①マレーシア渡航歴有。ワクチン接種歴なし)が2019年1月3日発熱, 1月5日発疹が出現し, 1月7日A診療所とB病院を受診し入院となった。

1月10日にPCR検査にて麻疹と診断された。同居家族4名中, 罹患歴のあった妻を除いた3名(②③④)がPCR検査陽性となった。患者①が受診したA診療所49名, B病院747名の接触者に健康観察を行った。乳幼児の接触者3名についてはγグロブリン製剤を投与した。

1月7日に患者①と接触があり, 健康観察を行っていた者のうちA診療所から4名(⑤⑥⑨⑩), B病院から3名(⑦⑧⑪)がPCR検査陽性となった。B病院の陽性者2名の家族である0歳児2名(⑫⑬)についてγグロブリン製剤を投与するも発症した。

Y保健所事例

Y保健所管内在住の30代男性(ワクチン接種歴不明)がZ保健所管内で麻疹患者との接触があり, Z保健所管内で健康観察中の1月21日に発症した。1月24日に受診したC病院で, この男性と明らかな接触が不明な者を含めて32名中10名がPCR検査陽性であり, 二次感染者が多く発生した。また, 10名のうち1名について, 同居の子どもに家族内感染があった。

大阪府内では4月以降の大きな集団感染事例はなかった。

ウイルス検査の結果

大阪健康安全基盤研究所にて, ウイルスの近縁系統関係を調べるため, X保健所管内で発生した麻疹ウイルス配列13症例, および, Y保健所管内で発生した麻疹ウイルス配列8症例, 計21症例を対象に麻疹ウイルスの遺伝子型別領域N遺伝子(450塩基)について, 最尤法にて分子系統樹解析を行った(図2)。その結果, 21症例すべてが東南アジア地域で流行している遺伝子型D8であった。X保健所管内13症例, Y保健所管内8症例の配列を詳細に解析すると, アミノ酸置換を伴う変異が5カ所あり, X保健所管内とY保健所管内は遺伝系統が異なる亜株である可能性が示唆された。

考察とまとめ

疫学調査や接触者の健康観察

Y保健所事例では30代男性はZ保健所で接触者として健康観察されていたが, 有症状時の受診行動の徹底がされておらず, C病院へ連絡なく受診したため感染拡大したと考えられる。

C病院での感染者のうち医療職はいずれもワクチン接種しており, 発症したが修飾麻疹であったことから二次感染はなかった。ワクチン接種者であっても医療処置等はリスクを考え, N95マスク等の着用も考慮する必要がある。また, 医療職以外のスタッフにも同様にワクチン接種など対策が重要である。

保健所は患者が発生した場合, 「麻疹発生時対応ガイドライン」に基づき, 1事例から即対応し感染拡大防止に努めた。それに加え, 臨床症状が揃わない疑い症例についても積極的にPCR検査を行い, 丁寧に接触者を経過観察し, 麻疹の診断をできたことが, 感染拡大を早期に終息させた一因でもある。

X保健所, Y保健所の集団感染事例については家族への三次感染はあったものの, おおむね二次感染で収まっていたことから, 保健所での調査や接触者の範囲については妥当であったと考える。

ワクチン接種

本府では風疹の前回流行(2013年)を受け, 2013年度から先天性風しん症候群対策として, ワクチン接種にかかわる補助事業を行い, 6年間で約84,000人にMRワクチンを接種しており, 今回の麻疹流行の拡大防止に一定の効果があったと思慮される。

今回の事例でもワクチンを2回接種している者は, 感染しても修飾麻疹で感染力が弱かったと考えられ, 感染拡大防止に有効であった。ワクチン2回接種を記録で確認することが重要であることが改めて示唆された結果であった。

報道機関や関係機関との情報共有

麻疹についての関心も高く, 広く周知の機会となった反面, 報道機関との公表の考え方の違いなど課題が明らかとなり, 公表の方針を考える機会となった。

本府では麻疹の公表の基準を設け, 保健所が感染拡大へのリスクを評価し, 広く注意喚起することで感染拡大防止につながる場合は1例でも公表するとした。さらに, 府内保健所での情報共有を図るため感染症連携会議を立ち上げた。

大阪府内保健所間での迅速な対応

患者の居住地, 勤務地, 受診医療機関, 生活範囲など所管する保健所が異なる事例があり, 関係保健所との迅速な情報共有や連携体制の確立が重要であった。患者調査や接触者調査などの依頼等について政令市・中核市を含めた保健所間で直接連絡できるよう5月に体制を変更した。

2019年6月に開催されるG20大阪サミットに向けて, 麻疹を含めた感染症への早期探知・早期対応できる体制を整えている。

 

大阪府健康医療部保健医療室医療対策課
 河原寿賀子 平山隆則 田邉雅章
大阪健康安全基盤研究所
 倉田貴子 上林大起 本村和嗣

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan