印刷
IASR-logo
 

三重県津保健所におけるワクチン接種率が低い集団における麻しんアウトブレイクへの対応

(IASR Vol. 40 p142-144:2019年8月号)

1.事例の概要

2019年1月7日津市内の医療機関から麻しん患者(和歌山県在住)に接触した者が発病した疑いがある旨の連絡があった。患者は20代大学生, 1月3日より発疹, 発熱, カタル症状等を呈し, ワクチン歴はなしであった。1月7日発生届を受理し, 1月8日PCR検査により麻しんウイルスが検出され検査診断例として確定した。疫学調査の結果, 県内の医療に依存しない安全・安心な食生活を重んじている集団が開催した研修会(2018年12月23~30日)に参加していたことが判明したため, 1月8日に集団施設を訪問し, 接触者リストおよび行事内容等の提出, 会合の自粛および有症者の不要不急の外出を控えること等の周知, ワクチン接種への協力依頼等を行った。

同日夕方, 別の診療所より麻しん疑い2名の届出があり, 同じ研修会に参加していることが判明した(1月9日確定)。これを受け, 1月9日に管内の郡市医師会に対し, 患者発生の報告と診察の協力依頼を行い, 県内病院には1月9日に県庁から協力依頼を行った。以後, 3月1日に三重県全体の麻しんアウトブレイクが終息したと判断されたが, 津保健所としてはその後も届出が続き, 3月27日(陰性)までに計39名の検査および疫学調査等を行い, 麻疹患者を22名認めた。1月28日以降, 患者発生はない。

なお, 当所では, 1例目が発生した時点で国立感染症研究所が策定している 「麻しん発生時対応ガイドライン」(ガイドライン)に基づき対応した。

2.症例定義

本事例では, 感染症法に基づく届出基準に準じて発生届が出された者, つまり, 発熱, 発疹, カタル症状の3症状がそろっており, PCR法で麻しんウイルス遺伝子が検出された患者を症例と定義した。患者22名のうち, 2名が修飾麻しんであった。また, 医療機関を受診したが検査をしなかったものの症例と疫学的関連があり3症状を満たす臨床診断例5名については症例として含めた。

3.発生状況

疫学調査に基づく患者数は, グラフのとおりである(図1, 2)。研修会にはスタッフ, 参加者合わせて54名が参加し, そのうち, 津管内居住者は16名(29.6%)であった。16名のうち, 患者は11名となり, 11名全員がワクチン接種歴なしであった。その他3名は罹患歴あり, 2名は状況不明である。また, 三次感染, 四次感染を含む患者総計22名のうち, ワクチン接種歴ありは4人, 集団関係者以外が3名であった。遺伝子型が同定されたものはすべてD8型であった。

なお, 三重県全体では本アウトブレイクに関連した症例は研修参加24名, 家族への感染9名, 学校での感染6名, 医療機関での感染5名, その他2名, 不明3名, 計49名となった。

4.ワクチン接種率の低い集団に属する患者および同居者への対応

発生届を受理した時点で, 既に, 学校や塾, 職場等々に出ている事例もあったため, 感染拡大を危惧し, その後の行動制限に関する理解と協力を強く求めた。

集団関係者はワクチン未接種者であること, 今後もワクチン接種や免疫グロブリン製剤投与を希望しない者が多いことから, 三次感染, 四次感染の発症リスクが高いと判断し, 患者に対し感染可能期間(発症日の1日前から解熱後3日を経過するまで)の外出自粛等の行動制限を強く求めた。さらに, 同居者である接触者には, 感染可能期間について詳細に説明し感染リスクがあることを伝え, 21日間の健康観察中は不要不急の外出を自粛するよう強く理解を求めた。ガイドラインには「実施した疫学調査により得た情報をまとめることで, アウトブレイクの概要, 原因, 今後注意すべき点などが整理される」と記載されている。様々な情報を迅速に整理し関係部署と共有するとともに, 患者家族の協力のもと, ワクチン未接種家族についての外出自粛要請は, 地域への感染拡大防止の一助になったと示唆された。

所内では, 事例ごとの情報共有, 感染拡大を抑えるための行動制限等の依頼の徹底, 健康観察の重要性等をキーワードに, 毎日ミーティングを行った。そして, 症例を認めた各家庭に対しては電話等で連絡を取り, 不安や悩み等の相談にも対応しながら過ごしてもらうよう支援を繰り返した。

また, 学校関係者等とはいち早く連絡体制を整えたが, 津市全体の関係部署間で把握できる体制が整えられたことが, 保健所との円滑な連携につながった。さらに, 診察に協力をいただいた郡市医師会の先生方には, 逐次, 情報共有をすることができた。その他の病院関係者の方々には, 県庁から1月29日以降, 「麻しんExpress Plusα」が発行され, 情報共有につながった。

5.総括および考察

今回はワクチン接種率の低い集団によるアウトブレイクであった。ワクチン未接種である集団内での感染拡大は防ぎきれなかったが, 地域での感染拡大には至らないよう患者が発生した施設関係者と連携したため, 大きな感染拡大には至らなかった。

日本はワクチンの有効率95%を目指し, 感染の機会を大幅に下げることを目指している。また, 2015 (平成27) 年3月27日に世界保健機関(WHO)から「麻しん排除状態」であると認定されている。しかし, 集団としては, 医療に依存しない健康や自然農法による安全・安心な食生活を重んじていたこと, かつての自然感染による免疫獲得を通常と考えていたことがアウトブレイクの大きな要因であった。

市全体のMRワクチン接種率が約95%以上あったこと, 患者発生に関わった施設管理者がワクチン接種歴や有症状者の把握に努めたことで大事に至らなかったこと, また, 集団代表者も徐々にワクチン接種に理解を示したことが感染拡大防止の一助になったと示唆される。

 

(以下所属はすべて2019年3月末時点)
三重県津保健所
 谷出早由美 中山 治 宮下哲雄 岡田ひろみ 田邊順子
 山﨑由紀子 佐藤千裕 原 有紀 井田彩也佳
三重県医療保健部薬務感染症対策課
 下尾貴宏 金谷康子 小掠剛寛 西岡美晴 原 康之
現所長 林 亘男(2019年4月から)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan