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フィリピン人技能実習生の宿泊研修での麻疹発生事例―富山県

(IASR Vol. 40 p175-176:2019年10月号)

麻疹は, 麻疹ウイルスによる高熱, 発疹, カタル症状を主徴とする急性感染症である。わが国では, 麻しんに関する特定感染症予防指針(2019年4月改正)により, 高い予防接種率を維持し, 国内すべての発生症例を迅速に把握する等, 対策が強化されている。2019年3月に, 富山県内の宿泊施設を利用したフィリピン人技能実習生3名の麻疹ウイルス感染事例が発生した。本事例における検査, および行政対応の概要について報告する。

症例の概要をおよびに示す。2019年3月29日に, 富山県内の医療機関において20代女性(患者A)が麻疹または風疹と臨床診断され, 管内の保健所へ届け出された。保健所は疫学調査を行うとともに, ウイルス検査を富山県衛生研究所へ依頼した。その結果, 患者Aの咽頭ぬぐい液, 血清, 尿から麻疹ウイルス遺伝子B3が検出された。風疹ウイルス検査は陰性であった。患者Aは, 2月25日にフィリピンから入国後, 富山県内の宿泊施設において技能実習生の研修を約1カ月間受講していた。3月22日から発熱・発疹が出現し医療機関を受診した。発症後は医療機関での助言に従い外出を自粛していた。

疫学調査の結果, 患者Aの発症10日前から発熱, 発疹症状を呈していた実習生(患者B)が1名, 患者Aの発症と同時期に有症状の実習生(患者C)が1名居ることが分かった。患者Bは20代男性で, 3月2日にフィリピンから入国後, 同宿泊研修を受講していた。3月11日から発熱・発疹が出現した。このため医療機関を受診したが, 薬疹が疑われたため, 研修参加を継続していた。患者Aの麻疹検査診断時, 患者Bの症状は軽快していたが3月30日に検体が採取され, ウイルス検査が実施された。その結果, 患者Bの末梢血単核球から麻疹ウイルス遺伝子が検出された(咽頭ぬぐい液, 血漿, 尿は陰性)。ウイルス量が少なかったため, 遺伝子型の解析は不能であった。患者Cは20代女性で, 2月25日に患者Aと同時期にフィリピンから入国し, 同宿泊研修を受け, 部屋も同室であった。3月24日に発疹が出現したが, 発熱はみられなかった。3月30日に採取された咽頭ぬぐい液と末梢血単核球から麻疹ウイルス遺伝子型B3が検出された。フィリピンでは, 2018~2019年にかけて麻疹が流行している1)。潜伏期間を考慮すると, 発端とみられる患者Bはフィリピン国内で感染し, その潜伏期間中に日本に入国し, 発症した可能性が考えられた。

保健所は, 感染症拡大防止に関する対応として, 研修生(フィリピン人32名), 研修関係者, 宿泊施設利用者, および医療機関関係者等の計491名について, 健康観察を行った。健康観察は4月20日まで実施されたが, 新たな発症者はみられなかった。富山県厚生部健康課は, 関係機関との連携として, 医師会や医療機関へメーリングリストを通じて情報提供を行った。また, 報道発表や県ホームページにより, 県民に予防接種の推奨や麻疹に関する注意喚起を行った。富山県衛生研究所では, 3月29日~5月9日まで20名の麻疹疑い例の検査を行ったが, 結果はすべて陰性であった。

本事例では, 外国人技能実習生の麻疹対策が課題として考えられた。2017年には, 埼玉県において外国人技能実習生講習会での風疹感染事例が報告されている2)。今後, 国内で外国人技能実習生の雇用が増加することが見込まれるため, ウイルスの侵入リスクを減らすことが必要である。このためには, 世界の麻疹・風疹流行状況の把握が重要であると考えられる。また, 本事例では, 患者のワクチン接種歴や罹患歴, 症状, 接触者などの聞き取りに通訳が必要であり, ワクチン接種記録を確認できない等, 患者情報の確認が困難であった。このため, 実習生の入国前や入国時に麻疹含有ワクチン接種歴を把握することが大切であると考えられた。さらに, 外国人実習生等における麻疹事例発生時の情報提供は多言語で行い, 関係者に広く情報を届けることも大切であると考えられた。

 

参考文献
 
 
富山県衛生研究所
 板持雅恵 稲崎倫子 佐賀由美子 嶌田嵩久 小渕正次 大石和徳
富山県厚生部健康課
 三井千恵子 冨澤都史美 松倉知晴
富山県砺波厚生センター
 高島阿里子 関 理恵子 田中恒久 土肥裕美子 垣内孝子
富山県高岡厚生センター射水支所
 笹田浩二 中川まゆり 竹内智子
富山県高岡厚生センター
 高森 徹 水木路男 守田万寿夫
富山市保健所
 石川智子 藤川美香 元井 勇
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan