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発生動向調査における麻しん発生状況, 2016年第1〜37週(9月21日集計)

(掲載日 2016/10/07)(更新日 2016/10/17)(IASR Vol. 37 p.236-237: 2016年11月号)

わが国では2007年12月に「麻しんに関する特定感染症予防指針(以下、指針)」が告示され、麻しん排除に向けて対策が強化された。これにより、2008年には11,013例であった報告数は激減し、日本で長年流行がみられていた遺伝子型D5の麻疹ウイルスも2010年5月を最後に検出されなくなった。このような状況のもと、2015年3月27日に、WHO西太平洋地域事務局により、日本は麻しんの排除状態にあることが認定された。

2016年第1〜37週までの麻しん患者報告数は、計130例であり、流行曲線()をみると、第33週(診断週)以降に急増していることがわかる。第33週の報告例13例のうち、千葉県から6例の報告があった。6例から検出された麻疹ウイルスの遺伝子型はD8であり、管轄保健所による疫学調査により、それら6例は疫学的関連を持つことが推定された(http://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrs/6797-441p01.html)。千葉県以外から報告された7例については、異なる自治体から1例ずつの報告であり、推定感染地域は国外4例(それぞれ異なる国)、国内2例、国内または国外1例であった(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/diseases/measles/measles2016/meas16-33.pdf)。国内感染が推定された2例のうち1例は関西国際空港内で勤務していた。また、千葉県以外から報告された7例のうち5例から検出された麻疹ウイルスの遺伝子型はH1であることが判明した。報告例の中にはこれまでH1型が報告されていない国への渡航歴のあるものが含まれていたことから、報告自治体に対して積極的疫学調査の結果について情報提供を依頼した。その結果、5例のうち4例で、7月31日に関西国際空港での勤務歴(上記)または利用歴があること、麻疹ウイルスの遺伝子型(さらに詳しい遺伝子配列まで)が全例で一致したことがわかり、同空港で麻疹ウイルスの感染機会があったと推定された(http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/measles/20160902.pdf)。

さらに、8月31日には同空港の事業所内において前述の空港内勤務者が発端と考えられる集団感染が報告された。大阪府の発表によると、9月29日現在、同空港事業所内における麻しん患者は計33例であり、麻疹ウイルスの遺伝子型が判明している29例はすべてH1型であった。今回の同空港事業所内における集団感染は、2015年に麻しん排除が認定された後では最大の規模となった(http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/osakakansensho/mashinsyudan.html)。

アジア、アフリカ、ヨーロッパ等では、現在も麻しん患者が多数発生している国が存在するため、今後も日本への輸入例は発生すると思われる。定期接種対象者(1歳および小学校入学前1年間の者)は勿論のこと、海外に渡航する者(厚生労働省検疫所FORTHホームページ:http://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html)、医療関係者、児童福祉施設等の職員、学校等の職員等で、麻しんの罹患歴がなく、麻しんの予防接種を2回接種していない者は予防接種を積極的に受けることが望ましい。また、麻しん患者が1例でも発生した場合には、積極的疫学調査により、患者の家族、職場の同僚などの接触者での感受性者を特定し、予防接種を推奨することも含めた対応を強化することが必要である。

近年、日本では麻しんの予防接種を2回接種した者の割合が上昇し、麻しん患者報告数は激減した。また、感染症流行予測調査によると、予防接種歴が2回の者の抗体保有率は約99%で一定している。一方、2016年第1〜37週までの麻しん患者報告例の予防接種歴(記録に基づかないものを含む)をみると、2014年以前と同様に、2回接種歴のある患者も一部含まれていた(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/diseases/measles/measles2016/meas16-37.pdf, http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2016/04/434tf03-1.gif)。

予防接種歴があっても免疫の獲得が不十分であったり、いったん獲得した免疫が減衰してきた者については、麻疹ウイルスに曝露されると麻しんを発症することがあるが、接種歴の有る者と無い者を比較すると、接種歴有りの者では典型的な麻しんの症状(発熱、癒合傾向のある全身性の発疹、カタル症状のすべてがそろう)を認める割合は低い傾向にある1-3)。このことから、定期接種対象年齢になったら速やかに接種を開始し、必要な回数の接種を完了することが、発症予防・重症化予防の観点から重要であると考えられる。

 また、医療機関では、患者の予防接種歴を「記録」で確認したうえで、麻しん患者との接触歴を丁寧に問診することが大切である。自治体では、麻しんの早期診断に資するため、患者の発生状況を迅速に医療関係者等と共有し、麻しん患者との接触者に対しては、接触後21日までの健康観察を依頼するとともに、麻しんの症状や経過について説明し、麻しんの発症が疑われた時の医療機関受診時の注意点や、症状出現の前日から解熱後3日を経過するまでは周りへの感染力があることを伝え、発症した場合には、人が多く集まる場所へ行くことをさけるなど、具体的な説明が必要となる。日本は麻しんの排除状態にあると認定されたとはいえども、麻しんの排除状態の維持に向けて、引き続き、指針に沿った麻しん対策を進めて行くことが重要である。

謝辞:診療、発生動向調査、積極的疫学調査、検査診断に従事し、ご協力いただいた医療関係者や自治体の関係者の皆様に深謝いたします。

引用文献
  1. Gershon AA, Measles Virus, Principles and Practice of Infectious Diseases, 8th edition, Elsevier Saunders, 2014; p1967-1973
  2. Rota JS, Hickman CJ, Sowers SB, et al., Two case studies of modified measles in vaccinated physicians exposed to primary measles cases: high risk of infection but low risk of transmission, J Infect Dis 2011; 204(suppl 1): S559-563
  3. Rosen JB, Rota JS, Hickman CJ, et al., Outbreak of measles among persons with prior evidence of Immunity, New York City, 2011; Clin Infect Dis 2014; 58 (9): 1205-1210
国立感染症研究所
 感染症疫学センター
 ウイルス第三部
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