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麻疹含有ワクチン接種率調査(2010年度全国集計最終結果)

 
(Vol. 33 p. 33-35: 2012年2月号)
2012年に麻疹排除を達成するためには、麻疹含有ワクチン接種率を向上させる必要がある。WHO(世界保健機関)は、すべての年齢コホートで麻疹に対する抗体保有率が95%以上になることが麻疹排除達成には必要としているが、そのためには、2回の接種率がそれぞれ95%以上になることが目標である。

わが国では1978年に麻疹ワクチンが定期接種に導入され、2006年度から麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種に導入された。さらに、2006年6月2日から、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前1年間の者)の年齢層に対する2回接種制度が始まった。

しかし、2006年に地域流行から始まった麻疹の流行は、2007年には全国的な流行となり、多くの高等学校や大学が麻疹により休校になった。麻疹ワクチンの接種を希望する者が医療機関に殺到し、麻疹ワクチンが不足し、さらには麻疹に対する抗体測定のためのキットも不足するなど、社会問題にも発展した。また、麻疹を排除した海外の国々からは麻疹輸出国と非難された。

これをうけて、2007年12月28日に「麻しんに関する特定感染症予防指針」が告示された。2007年の流行は、麻疹含有ワクチン未接種あるいは1回接種の10~20代を中心に発生したことから、まずは10代への対策を強化する目的で、2008年度から5年間の時限措置として第3期(13歳になる年度の者)と第4期(18歳になる年度の者)の年齢層に対する2回目のワクチンが定期接種に導入された。

本稿では、第1、2期開始後5年目、第3、4期開始後3年目の2010年度の第1期~第4期の麻疹含有ワクチンの接種率を図1図2図3図4に示す。

1)第1期:2010年度、全国の接種率は95.7%であり、2009年度と比較して 2.1ポイント上昇し、目標とする95%以上を初めて達成した。最も高かったのは徳島県の99.6%、最も低かったのは福島県の91.7%であった。95%以上を達成したのは、2009年度が47都道府県中9道府県であったのに対し、2010年度は34道府県と著明に増加し、90%未満の都道府県はゼロとなった(図1)。このまま95%以上を継続して維持していくことが重要と考える。2010年度第1期対象者における未接種者数は、全国で47,070人であった。

2)第2期:導入5年目にあたる2010年度の第2期全国接種率は92.2%であり、前年度92.3%より 0.1ポイント減少した。最も高かったのは新潟県の96.9%、最も低かったのは神奈川県の88.4%で、80%台は神奈川県のみとなった。95%以上の接種率を達成していたのは8府県であり(図2)、日本海側の県に多かった。2回の接種率がそれぞれ95%以上になることが排除の目標であることから、さらなる接種率向上には保育所や幼稚園で、入学前に2回の接種が完了しているかを確認し、最年長組の児童が第2期の麻疹風疹混合ワクチンの接種を受けていない場合には保育所や幼稚園で個別に接種を勧奨するなど、きめ細やかな啓発が重要と考える。なお、2010年度第2期対象者における未接種者数は、全国で86,594人であった。

3)第3期:導入3年目である2010年度の全国接種率は87.3%であり、前年度の85.9%より 1.4ポイント上昇した。47都道府県中、最も接種率が高かったのは茨城県の96.5%、最も低かったのは鹿児島県の79.9%で、70%台は鹿児島県のみとなった。95%以上を達成したのは、茨城県、富山県、福井県、新潟県の4県であり(図3)、2009年度より2県増加した。また、全国47都道府県中、34都道府県で前年度より接種率が上昇した(表1)。学校での集団接種を実施している茨城県では毎年度接種率が高く、この年齢層の子ども達が接種を受けやすい環境としては学校を接種場所とした集団的個別接種の重要性が考えられた。また自治体と学校が連携して、接種の意義、麻疹と風疹の予防の重要性についての教育を本人と保護者に丁寧に行うとともに、未接種者への個別の積極的な接種勧奨が95%の目標達成には重要と考える。なお、2010年度第3期対象者における未接種者数は、全国で152,945人であった。

4)第4期:2010年度の第4期の全国接種率は、4つの期の中では最も低い78.9%であったが、前年度より1.9ポイント上昇した。95%以上を達成した都道府県はなかったが、山形県、新潟県、富山県、島根県、福井県、秋田県、佐賀県で90%以上となった(図4)。2009年度と比較すると、全国47都道府県中、34都道府県で接種率が上昇した(表1)。最も接種率が高かったのは山形県の91.8%、最も低かったのは神奈川県の62.6%であり、60%台であったのは神奈川県と東京都のみとなった。なお、2010年度第4期対象者における未接種者数は、全国で256,655人であった。第4期においても、第3期と同様に、学校で未接種者に対して個別に接種勧奨をすることが重要であり、この年齢層では近い将来妊娠ということも考えられる。2011年の風疹の地域流行にも触れて、保護者と本人に対し、麻疹と風疹の予防の重要性を伝えて欲しい。保健行政と教育部門が連携した上で、“顔の見える”接種勧奨をさらに強化することが必要不可欠であり、そのためには各学校におけるクラスの担任や養護教諭の役割が何にも増して重要であると考える。

第1期~第4期すべてにおいて90%以上であったのは、秋田県、山形県、新潟県、富山県、福井県、島根県、佐賀県の7県であり、2009年度の3県と比較すると増加していた。2009年度の調査で認められていた(1)年齢が大きくなるにつれて接種率が低下する、(2)大都市圏において特に接種率が低い、(3)接種率の高い都道府県と低い都道府県が固定化されつつある、という三つの傾向は2010年度も変わらずみられていたが、2009年度に比較すると、全体的に接種率は上昇しており、2012年度までの措置である第3期・第4期の接種率を目標の95%に高めるとともに、第1期の95%以上は維持しつつ、第2期も95%以上を達成できるよう、さらなる啓発が必要である。

厚生労働省のホームページ(2012年1月現在URL:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html)には、全市区町村の第1期~第4期の接種率が公表されているので、各市町村における接種率向上に向けた取り組みに活用して欲しい。

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子 佐藤 弘 岡部信彦

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