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麻しん予防接種率向上への学校の取り組み-山形市

 
(Vol. 33 p. 38-39: 2012年2月号)
1.はじめに
私たちは学校において感染症対策推進の役割を担う養護教諭として、2007(平成19)年度より4年間、「感染症発生の予防と対応」をテーマに取り組み、自分たちの職務を見つめ直して再構築を図った。また、生徒の感染症に関する実態を調査し、(1) 麻しん、(2)インフルエンザ、(3)感染性胃腸炎の各グループで今後の実践内容を検討し、全体で共有した。さらに、「養護教諭の特質と保健室機能を生かした執務の展開」と「育てたい力を明確にした予防教育(予防指導)の実践」が重要と考えて、この2つの活動を“生徒の健康行動を支える情報”と“積極的・計画的支援”をキーワードに山形市内19中学校で実践した。

麻しんについては、「予防期」、「流行期」、「終えん期」の各段階における“養護教諭の職務”と“情報提供の工夫”について『校内体制ガイドライン』としてまとめた。また、効果的な指導時期と内容を検討して『予防指導プログラム(年間計画)』を作成した。

2.啓発活動の実際
(1)機会を捉えた積極的・計画的な啓発活動(1学期:全員への積極的勧奨期)
生徒たちが口にするのは、「部活動が忙しい」、「暇がない」などである。そこで、5月の部活動開始までを第1の取り組み期とし、入学前2月の新入生保護者会を皮切りに、入学直後から機会を捉えて声かけや資料配付を行った。入部後は部活動のない日、代休日を保健便りなどで具体的に保護者へお知らせし、また、部活動より受診が優先する「治療強調週間」を6月下旬に設けるなど、接種を促す環境の整備に努め、6月末時点の接種状況を調査して夏季休業前の積極的勧奨につなげた。

(2)「保健指導」の充実と一人ひとりを大事にした啓発活動(2学期:グループ・個別指導の充実期)
6月末の接種状況から対象者を絞り込み、2学期は「グループ・個別指導の充実期」として未接種者への働きかけを強化した。10月に山形市から未接種者へ接種勧奨文書が個人通知されるのに歩調を合わせて、未接種者へ啓発用DVDを使ってグループ指導を行った。さらに、その後の接種状況を確認しながら個別指導を行い、その内容を2学期末の三者面談時に担任から保護者へ直接報告してもらっている。生徒の接種環境は複雑化していることから、一人ひとりの抱える状況に寄り添いながら、接種できる環境づくりをともに探り、見守っていく姿勢が肝要である。

(3)学校医・市健康課・教育委員会など関係機関との連携強化
内科健診や学校保健委員会などの機会を捉えて、学校医にそのつど接種状況を報告して助言をいただいた。また、行政機関からのリーフレット・個別通知文書などの配布時期、接種状況調査時期を考慮した上で年間計画を立て、接種状況調査結果を次の啓発活動に連動させていくことがポイントである。学校として市や県の接種状況等を積極的に情報収集しながら、日頃から顔と顔が見える連携を大事にして、ネットワーク化を強めていく工夫が大切である。

(4)麻しん(3期)予防接種率の推移
麻しん予防接種率は年々高くなり、早期に接種を終える生徒が増加した()。2008(平成20)年度の山形市接種率は県平均を下回っていたが、2010(平成22)年度は県平均を上回った。

3.まとめ
感染症予防教育は、生徒がこれから生きる上で大切な「自立と共生の力」を育む機会となり、養護教諭の積極的・計画的支援が生徒の意識や行動変容につながることが見えてきた。地域保健の中の学校の役割を再認識し、発生予防・蔓延防止のための予防接種の積極的勧奨と予防教育の充実、早期発見・早期対応のための健康観察の確実な実施、迅速かつ的確な情報収集と情報提供、校内の感染症予防体制の確立等をさらに進めていきたい。また、生徒の健康課題解決と真の自立のために、学校・家庭・地域関係機関との連携をさらに強め、協働していきたい。

山形市中学校教育研究会養護部会
山形県山形市立第十中学校 養護教諭 三浦真喜子(文責)

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