国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.4(No.422)

麻疹 2015年3月現在

(IASR Vol. 36 p. 51-53: 2015年4月号)

麻疹は、発熱、発疹、カタル症状を主症状とする急性ウイルス感染症で、感染力が極めて強い。肺炎あるいは脳炎を合併することがあり、これらは麻疹の2大死因と言われている。また、麻疹ウイルスに感染後、数年~10年程度経過してから発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、極めて予後不良の脳炎であり、現在のところ有効な治療法はない(本号17ページ)。 

わが国は「麻しんに関する特定感染症予防指針(以下、指針という。)」(2007年12月28日厚生労働省告示第442号、2013年3月30日改訂厚生労働省告示第126号)に基づき、2015年度を麻疹排除の目標年と定めて対策を進めてきた。2014年に、麻疹排除認定会議〔National Verification Committee (NVC) for Measles Elimination in Japan〕は、適切なサーベイランス体制のもとで3年間、わが国土着の麻疹ウイルス(D5型)による伝播がないことを確認したため、麻疹排除と考えられる状態であるとして、世界保健機関(WHO)に報告書(Progress Report of Measles Elimination in Japan)を提出した(本号15ページ)。その結果、2015年3月27日、WHO西太平洋地域事務局により、日本は西太平洋地域の他の2つの国(ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア)とともに、昨年認定された国と地域(オーストラリア、マカオ、モンゴル、大韓民国)に加えて新たに麻疹の排除状態にあることが認定された。

感染症発生動向調査:2013年末~2014年にかけて、フィリピンを中心としたアジア諸国からの輸入例を発端として、患者報告数が急増した(図1)(本号7ページ)。保健所を中心に積極的疫学調査が実施され、地方衛生研究所(地衛研)でウイルス学的検査が行われた結果(本号45ページ)、医療機関(本号4ページ)や幼稚園(IASR 35: 278-280, 2014)での集団発生も明らかになった。また、積極的疫学調査に基づいて感染拡大防止対策を実施した結果、2014年第18週頃から新規患者の報告数が減少した(図2)。2015年は3月現在、過去7年間で最低の報告数である(図2)。

年齢群別にみると(表1)、2008年度から5年間の時限措置で実施された中学1年生(第3期)と高校3年生相当年齢の者(第4期)へのMRワクチン接種が功を奏したため、10代の患者数は激減し、同時に10歳未満の患者数も減少した。20歳以上の割合は2008年33%、2009年36%、2010年37%、2011年48%、2012年58%、2013年70%、2014年47%であった。

2014年に報告された患者(n=462)のワクチン接種歴は、未接種216(47%)、1回接種87(19%)、2回接種32(7%)、不明 127(27%)で、未接種の割合が2008年以降で最多であった(図3)。未接種割合の多い0~1歳児(n=93, その83%が未接種)に加えて、定期接種の機会が2回あった6~24歳(n=142, その49%が未接種)にも未接種者が多かった。

麻疹ウイルス分離・検出状況:国内土着株とされたD5型は、2010年5月を最後に現在まで4年10カ月間検出されていない(図4)。2014年は全国の地衛研で366の麻疹ウイルスが分離・検出された(表2)。B3型が最も多く検出され(261)、このうちフィリピンへの渡航歴がある人が63と多く、そこから周りにいるワクチン未接種者を中心に小規模の集団発生が各地で発生した(IASR 35: 178-179, 2014)。B3型以外では、D8型(57)、D9型(22)、 H1型(15)が検出されたが、いずれも一人発生した時点で、すぐに積極的疫学調査と全例の検査診断が実施され、大規模な感染拡大には発展しなかった(IASR 35: 132 & 177-178, 2014)。未型別は11であった。2015年は、H1型が1(中国への渡航歴あり)、D8型が2(うち1例はインドネシアへの渡航歴あり)報告されている(図4)(2015年3月31日現在)。

麻疹検査診断の現状:わが国では指針に基づいて、原則として 全例に検査の実施を求めている。医療機関は麻疹と臨床診断した時点で、可能な限り24時間以内に最寄りの保健所に届出を行い、民間の検査センター等で麻疹抗体価の測定を実施している(健康保険適用)。保健所は医療機関と連携して急性期の臨床検体(発疹出現後1週間以内のEDTA加血液、咽頭ぬぐい液、尿の3点セット)を地衛研へ搬送できるように調整し、地衛研は麻疹ウイルス遺伝子の検出あるいは麻疹ウイルスの分離を実施し、検出(あるいは分離)がなされた場合は麻疹ウイルスの塩基配列解析を行っている。

臨床診断例は、症状とウイルス学的な検査所見から麻疹と確定すれば検査診断例に変更され、また、検査で否定されれば届出は取り下げられる。

2008年に約38%であった検査診断例の届出は2014年には90%以上となった。2014年は全報告数の約78%でPCR検査が陽性となり、地衛研でウイルスの塩基配列の解析が行われた(本号9ページ)。その解析結果が12カ月間以上伝播を継続した麻疹ウイルス株がないことを証明する有力な証拠となった。また、2015年3月には麻疹の病原体検出マニュアルが改訂された(第3版)(http://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html#class5)。

感染症流行予測調査:2014年度は23都道府県の地衛研で、6,785件の血清検体から麻疹ゼラチン粒子凝集(PA)抗体測定が実施された(本号10ページ)。採血の対象は献血や定期検査などを受診した健常人等が中心である。全体のPA抗体陽性率(PA抗体価1:16以上)は、2011年度以降4年連続で95%以上であった。年齢別の抗体保有率は、0~5か月児では73%(母親からの移行抗体)、6~11か月児では12%、1歳児になると定期の予防接種により抗体保有率は上昇し、2歳以上のすべての年齢/年齢群で95%以上となった(図5)。 

ワクチン接種率:2006年度にMRワクチンを用いた第1期(1歳児)、第2期(小学校就学前の1年間の幼児)の2回接種が開始され、現在も定期接種として継続中である。2008~2012年度は、10代への免疫強化のために、中学1年生(第3期)および高校3年生相当年齢の者(第4期)を対象にMRワクチンの接種が行われた。

第1期においては2010~2013年度まで4年連続して接種率95%以上を達成した(本号12ページ)。第2期における接種率は、2013年度は93%であり、目標の95%に近づいているがまだ達していない。第1期・第2期ともに2013年度の接種率が2012年度より下がっていることから、第1期は1歳になったらなるべく早く、第2期はできる限り対象年度初めの4~6月に接種することが重要である。

今後の対策:指針に基づいて、国内の麻疹排除状態を維持するためには、①2回の定期予防接種率をそれぞれ95%以上に上げて、麻疹ウイルスが輸入されても広がらないような高い抗体保有率を維持しておく、②海外では未だ麻疹が流行している国が多いことから(本号1820ページ)、流行国への渡航前には必要な予防接種を徹底すること、③サーベイランスを強化し、1例でも発生したら迅速な積極的疫学調査を実施し、適切な感染拡大予防策を講じることが重要である。このため、都道府県において患者を迅速に把握する必要があることから、昨(2014)年の法改正において、厚生労働省令において定める医師の届出方法について、患者の氏名・住所等を直ちに届け出をしていただくよう変更し、2015年5月21日から施行する予定である。

 

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