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国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース・感染症疫学センター
2019月7月10日現在
(掲載日:2019年10月16日)

麻疹をコントロールできる唯一の方法は予防接種であるが、日本では乳児期早期は移行抗体による影響を考慮し、麻疹含有ワクチンの定期接種は1歳以降となっている。生後6か月以降は移行抗体の減衰により、感染力の強い麻疹ウイルスに曝露すると感染し、発症する症例が認められる。また、麻疹の合併症として知られている亜急性硬化性全脳炎は幼少期、特に2歳未満で麻疹に罹患すると発症のリスクが高くなることが知られている。2015年3月、日本はWHOより麻疹排除状態と認定されたが、2018年後半から現在に至るまで麻疹報告例が増加している。本稿は2010年1月1日~2019年6月30日に、感染症発生動向調査(NESID)に届出された麻疹検査診断例のうち、1歳未満の乳児症例に関して発生数・全届け出数に対する割合・1歳未満人口における麻疹発生率の推移についてまとめた。

2010年以降、各年に届出られた全年齢の麻疹検査診断例は、2010年447人、2011年439人、2012年283人、2013年229人、2014年462人、2015年35人、2016年165人、2017年186人、2018年282人、2019年(1月1日~6月30日)644人であった。一方、同期間の乳児麻疹の報告数および全年齢の麻疹例における乳児麻疹の割合(%)は、2010年18人(4.0)、2011年16人(3.6)、2012年13人(4.6)、2013年8人(3.5)、2014年47人(10.2)、2015年2人(5.7)、2016年7人(4.2)、2017年4人(2.2)、2018年17人(6.0)、2019年(1月1日~6月30日)32人(5.0)であった。また、1歳未満人口における麻疹発生率は10万人・年あたり、2010年1.7人、2011年1.5人、2012年1.2人、2013年0.8人、2014年4.6人、2015年0.2人、2016年0.7人、2017年0.4人、2018年1.8人、2019年3.4人であった。

麻疹排除認定を受けた2015年は全麻疹例が35人/年と過去10年間で最も少なく、乳児麻疹発生率も最少の0.2人/10万人・年であった。一方、患者報告数の多い直近2年間の乳児麻疹発生率は2018年が1.8人/10万人・年、2019年は1.7人/10万人と、乳児麻疹発生率はやや増加傾向ではあるものの、全麻疹例における乳児の割合は2015年5.7%に対し、2018、2019年はそれぞれ6%、5%と同等であった。月齢分布では0カ月以降どの月齢でも報告患者は発生しているものの、6か月以上が多くを占めていた。

乳児麻疹報告事例の過去約10年のまとめとして、全麻疹例の増加に伴い乳児例も増加するものの、乳児例の割合には明らかな変化は認められなかった。従って、重症化のリスクがある乳児麻疹の患者数が増えることは、乳児が麻疹に感染しやすくなっているわけではなく、麻疹ウイルス曝露機会が増加していることが原因と考えられる。生後6か月以降を中心とした乳児を麻疹から守るためには麻疹含有ワクチン2回接種を徹底し、麻疹患者を減らすよう働きかけることが重要である。

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