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The Topic of This Month Vol.34 No.8(No.402)

流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) 2013年7月現在

(IASR Vol. 34 p. 219-220: 2013年8月号)

 

流行性耳下腺炎は、耳下腺のびまん性腫脹・疼痛、 発熱を主症状とし、その特徴的な顔貌からわが国では「おたふくかぜ」と呼ばれている。原因ウイルスであるムンプスウイルスは、パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ルブラウイルス属に属するマイナス極性1本鎖RNAゲノムを持つエンベロープウイルスである。2012年に世界保健機関(WHO)により提唱された新分類では、ウイルスゲノム中、最も多型性に富むsmall hydrophobic(SH)領域の塩基配列を基に、A~Nの12遺伝子型に分類されている(ただし、従来のEはCに、MはKに再分類され、EとMは欠番)(本号6ページ)。

ムンプスウイルスは飛沫感染あるいは接触感染で伝播し、基本再生産数(R0: 1人の感染者から二次感染をさせる平均的な人数)は4~7である(麻疹は12~18、風疹は5~8)。潜伏期は通常16~18日間で、患者は発症数日前から感染性ウイルスを排出する。学校保健安全法は流行性耳下腺炎を、第2種学校感染症に指定し、耳下腺、顎下腺、舌下腺の腫脹発現後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止とすることとしている。全感染例の30~35%存在する不顕性感染例も、ウイルスを排泄し、 感染源となる。

感染症発生動向調査:流行性耳下腺炎は感染症法に基づく5類感染症定点把握疾患であり(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-27.html)、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週患者数が報告されている(図1)。 

国内では1981年に乾燥弱毒生おたふくかぜワクチンの任意接種が始まったが接種率は低く、3~5年ごとに大規模な流行が繰り返されていた。1989年4月から、麻しんワクチンの定期接種時に、麻しんおたふくかぜ風しん混合(measles-mumps-rubella:MMR)ワクチンの選択が可能となったことから接種率が上昇し、患者報告数は減少した。しかし、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の発生が社会的な問題となり、1993年4月にMMRワクチンの接種は中止された(本号12ページ)。それ以降は、おたふくかぜ単味のワクチンが使用されているが、4~5年間隔で大きい流行を繰り返している(2001~2002年、2005~2006年、2010~2011年)。

厚生労働科学研究班(研究代表者:谷口清州、研究分担者:永井正規)の調査によると、患者報告数が多かった2005年で135.6万人 [95%CI:127.2~144.0万人]、少なかった2007年は43.1万人 [同:35.5~50.8万人]が全国で罹患していたと推計されている。

図2の年齢分布図は、小児科定点からの報告であるが、報告患者の年齢は4歳が最も多く、次いで5歳、3歳の順である。0~1歳は少ない。6歳未満で全体の約60%、10歳未満で約90%を占めていたが、2010年ごろから徐々に6歳未満の割合が減少し、10歳以上の割合が増加する傾向にある。

ムンプスウイルス分離・検出状況: 2000年1月~2013年6月の地方衛生研究所からのムンプスウイルス検出報告は2,462件であった(2013年7月18日現在報告数)。検出例の臨床診断名は流行性耳下腺炎1,397件、無菌性髄膜炎764件が報告された(図3)。流行性耳下腺炎は小児科定点の約10%の病原体定点、無菌性髄膜炎は基幹定点(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)で検体が採取されている。

国内で流行するムンプスウイルスの遺伝子型は、1980年代はBのみが、1990年代にはJがBに併存して流行した。年代ごとに変化が認められた。1999年にはGとLに変化し、2000年以降はGのみが流行している(本号ページ)。

流行性耳下腺炎の予後と合併症:予後は一般に良好であるが、 無菌性髄膜炎、 感音性難聴、脳炎、精巣炎、卵巣炎、 膵炎など種々の合併症を引き起こす(本号4ページ)。流行性耳下腺炎と診断された患者全体の1~2%が入院加療を要する髄膜炎を合併する(本号12ページ)。ムンプス難聴は患者の0.1~1%にみられ、年間700~2,300人のムンプス難聴が日本で発生していると推定されている(本号10ページ)。頻度の高い片側性難聴は、小児では気づかれないことが多い。両側高度感音性難聴の発症はまれであるが、補聴器や人工内耳の装着を必要とし、中学生以前の発症では速やかな言語指導が必要である(本号10ページ)。

おたふくかぜワクチンの有効性・安全性:おたふくかぜ含有ワクチンを国の定期接種に導入している国は、世界で117カ国あり、2回接種が110か国、1回接種が7か国である。定期接種に導入していない国は76か国(39%)で、先進国では日本のみが任意接種を続けている。

1回接種と2回接種の効果を比較すると、2回接種の方が高い効果が示されており、WHOは2回接種を奨励している。しかし近年、米国でMMRワクチン2回接種者における集団発生があり、3回目の接種介入が行われた例がある(本号14ページ)。

おたふくかぜワクチンに使用されているワクチン株は、世界で10種類以上あり、海外でワクチンに用いられているJeryl-Lynn (JL)株、JL株由来のRIT-4385株は遺伝子型A、Leningrad-3 株、Leningrad-Zagreb株は遺伝子型N、国産ワクチン株はすべて遺伝子型Bに属する。現在国内で用いられているワクチン株は星野株と鳥居株である(占部AM9株は使用中止、宮原株は販売休止中)(本号6ページ)。

ワクチン株ごとに有効性と安全性に差のあることが報告されている。有効性(vaccine effectiveness)に関しては、わが国で開発された占部AM9株、鳥居株、星野株、宮原株はほぼ同様である。欧米での調査では、JL株より占部AM9株の方が高いことが報告されている。(おたふくかぜワクチンに関するファクトシート:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bybc.pdf)。安全性については、JL株の方が、無菌性髄膜炎の発生が、占部AM9株、Leningrad-3株、星野株、鳥居株より低いと云う報告がある。また、自然感染では年少児ほど不顕性感染率が高く、年齢が高くなるにつれて合併症の発症率が増加するという報告があることから、副反応出現率を抑制するためには、初回接種は1歳が適切である(本号3ページ)。

今後の展望と課題:流行性耳下腺炎は、患者の100人に1~2人が無菌性髄膜炎を発症し、年間700~2,300人の高度感音性難聴を合併している事を考えると、現状を放置できない。

2012年5月の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会の第二次提言は、水痘、B型肝炎、成人用肺炎球菌と共におたふくかぜの予防接種を広く促進することを推奨し、2013年3月の予防接種法改正における衆議院および参議院の附帯決議では、2013年度末までにおたふくかぜワクチンの定期接種化に関する結論を出すこととしている。

今後は、ワクチン歴・成人を含めた患者サーベイランス、全国的な病原体サーベイランス網の確立、国民の抗体保有状況調査、予防接種率調査、予防接種後副反応サーベイランスの充実が必要である。そのためには、厚生労働省・国立感染症研究所・地方衛生研究所・保健所・医療機関の協力が益々重要である。

 

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