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2011年流行時におけるMycoplasma pneumoniae 感染症による入院患者の臨床的検討

(IASR Vol. 33 p. 162-163: 2012年6月号)

 

2011年はマイコプラズマ肺炎の大きな流行年となり、感染症発生動向調査における報告者数が6月以降過去最高水準を推移し続けた。そこで2011年流行時におけるMycoplasma pneumoniae 感染症による入院患者の臨床像について検討を行った。

方 法
対象は、2011年6~12月に血清抗体価または病原体の核酸検出により、M. pneumoniae 感染症と診断され入院した患者とした。血清抗体価の診断基準は感染症発生動向調査に準じた。臨床情報は、年齢・性別、基礎疾患や、検査結果、治療経過を統一した調査票にて収集した。

結 果
14都道府県47医療機関(小児科38施設、内科・呼吸器科9施設)から診断基準を満たしたM. pneumoniae 感染症患者763例の臨床情報が収集された。年齢群別の概要を表1に示す。平均年齢は7.8歳(範囲0~79歳)、年齢群別の患者数は、乳幼児群が96例(12.6%)、未就学児群が184例(24.1%)、就学群児が455例(59.6%)と、15歳以下の小児が症例の96.3%を占め、成人例は28例(3.7%)であった。

酸素吸入療法は190例(24.9%)、副腎皮質ホルモン(ステロイド)の内服または静注による全身投与は180例(23.6%)に対して行われていた。抗菌薬は759例(99.5%)において使用され、いずれの年齢群においてもマクロライド系抗菌薬は約8割の症例で使用されていた。ミノサイクリンは就学児群では半数を超える51.9%の症例に投与されていたが、未就学児群では15.2%、乳幼児群では症例の5.2%のみの投与であった。フルオロキノロン系抗菌薬は成人群では60.7%に使用されており、また、乳幼児群および未就学児群ではミノサイクリンよりも多い約2割の症例で投与されていた。

症例の有熱期間は平均7.0日、発症から退院までの罹病期間は平均12.4日であり、軽症脳炎脳症の合併例が1例あったものの、人工呼吸器による補助換気を要した症例や死亡例は無かった。

外来治療を経ずに入院となった176例についてその治療予後を初期治療抗菌薬ごとに比較すると、これまで有効とされてきた抗菌薬のうち、マクロライド治療群がミノサイクリン、フルオロキノロン治療群にくらべ抗菌薬の変更率が高く、有熱期間や罹病期間もやや延長していた(表2)。β- ラクタム単剤治療群を基準として比較した線形多変量解析の結果、有熱期間はいずれの抗菌薬もβ- ラクタム単剤治療群と有意な差を認めなかったが、罹病期間は、ミノサイクリン治療群のみが有意差を認め、β- ラクタム単剤治療群と比較して2.5日(95%信頼区間:0.7~4.3日)短縮していた。

考 察
マイコプラズマ肺炎は小児を中心とした市中感染症であるが、入院例においても基礎疾患を有さない小児がその多くを占めていた。また、2011年は大きな流行がみられたものの、今回の入院例に絞った調査において重篤な合併症や死亡例はなく、臨床経過についても過去の報告との大きな乖離は認めなかった。

一方、これまでM. pneumoniae 感染症の第一選択薬であったマクロライドの臨床効果が低下していることが示され、その要因として、近年増加しているマクロライド耐性菌の蔓延が考えられた。ただし、これは発症後に外来治療を経ずに入院となった症例に限った結果であり、M. pneumoniae 感染症全体の状況については外来治療例を含む異なる知見の集積が必要と考えられた。

謝辞:本研究の実施にあたり症例をご提供いただいた研究協力医療機関の諸先生方に深く感謝いたします。

 

国立感染症研究所細菌第二部
鈴木里和 堀野敦子 見理 剛 佐々木裕子 柴山恵吾
国立感染症研究所感染症情報センター
安井良則 谷口清州
(平成23年度厚生科学研究費補助金、新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「国際的な感染症情報の収集、分析、提供機能、およびわが国の感染症サーベイランスシステムの改善・強化に関する研究」班)

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