Mycoplasma amphoriforme, 長引く咳嗽を主訴とする小児からの検出
(IASR Vol. 37 p. 115: 2016年6月号)
Mycoplasma amphoriformeは1999年にWebsterらによって慢性気管支炎を罹患している免疫不全患者から検出され, その存在が確認された1)。その後の調査では免疫能の正常な患者からの報告もあり2,3), 現在では気道感染症原因菌として認知されている。しかし本菌は栄養要求が厳しく, またその性状がMycoplasma pneumoniaeと同様のブドウ糖分解, アルギニン非代謝性であることから, 感染していても検出できていない, または見逃されている可能性も高く, わが国ではこれまで検出の報告はなかった。今回我々は肺炎マイコプラズマ感染疑い患者の調査中にM. amphoriformeを分離同定したので報告する。
患者は4歳の女児, 2015年5月頃から咳嗽が続いていたが鼻汁なく, 他の全身所見もなかったため医療機関を受診することはなかった。しかし2015年8月, 7歳の兄が発熱(39.3℃), 咳嗽の症状を呈したためクリニックを受診, 胸部レントゲン検査で右上肺野に陰影があり, M. pneumoniae LAMP陽性でマイコプラズマ肺炎と診断されたことから, 妹についても咽頭ぬぐい液を採取, M. pneumoniae特異遺伝子の検出(LAMP)およびマイコプラズマの培養検査(自家製酵母エキス使用二層培地およびPPLO broth)を実施した。
その結果, LAMPは陰性, 培養検査でも二層培地では変化がなかったが, PPLO brothで培地の黄変が認められた。PPLO broth で発育した菌は0.45μmのポアサイズのフィルターを通過, PPLO brothでは継代培養できたが, 二層培地およびPPLO寒天培地には発育しなかった。黄変の認められた培地から抽出したDNAのM. pneumoniae同定PCR4)でも陰性であったことから, 16S rRNA遺伝子(GenBank accession No. LC131338)による同定を試みたところ, M. amphoriforme A39(NR_117836)と99.9%一致(1408/1409 16S rRNA partial sequence), M. amphoriformeと同定した。
血液検査では白血球数9,000, 好中球53%, CRP 0mg/L, 生化学;特に異常なし, マイコプラズマ抗体(PA法);320倍, 百日咳抗体PT; 4 EU/mL, FHA; 23 EU/mLであり, M. pneumoniaeの感染履歴が認められた。
分離菌はM. pneumoniaeの治療に用いられるマクロライド系薬剤, テトラサイクリン系薬剤, ニューキノロン系薬剤に耐性は認められなかった。女児は8日間のトスフロキサシンの投与によって咳嗽は消失した。
兄の咽頭ぬぐい液の培養検査では, 二層培地, PPLO brothの両方でM. pneumoniaeを検出した。さらに, 兄妹のM. amphoriforme特異遺伝子の検出real-time PCR5)を実施したところ, ともに陽性であった。
本事例のみでM. amphoriformeの病原性およびM. pneumoniaeとの共感染時における両菌の関連性について論じることは難しいが, わが国においてもM. amphoriformeが存在することが明らかとなった。外国の事例ではウイルスとの共感染の報告もあり5), 種々の感染症が疑われる患者の遺伝子検出検査を行うことによりM. amphoriformeの感染実態が明らかになってくるものと考えられる。
参考文献
- Webster D, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 22: 530-534, 2003
- Pitcher DG, et al., Int J Syst Evol Microbiol 55: 2589-2594, 2005
- Pereyre S, et al., Clin Microbiol Infect 16: 1007-1009, 2010
- Craven RB, et al., J Clin Microbiol 4: 225-226, 1976
- Ling CL, et al., J Clin Microbiol 52: 1177-1181, 2014