注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を原因菌とする肺炎で、流行時には市中肺炎全体の20~30%を占めることもある。感染経路は主に飛沫感染と接触感染で、患者は1~14歳に多く、家族内や学校などでしばしば集団発生が起こる。潜伏期間は感染後2~3週間程度である。症状は発熱、全身倦怠感、頭痛、咳などで、解熱後も咳が長く続くことがある。肺炎の場合でも比較的症状は軽く、肺炎に至らない気管支炎症例も多い。一方、重症化して入院治療が必要な症例もある。また、患者の5~10%未満で中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症を発症することも報告されている。治療はマクロライド系抗菌薬が第一選択薬となるが、耐性を持つ株も検出されており抗菌薬の適切な使用が求められる。なお、現時点で有効なワクチンはない。
感染症法に基づく感染症発生動向調査においてマイコプラズマ肺炎は5類感染症、定点把握対象疾患に位置付けられており、全国約500カ所の基幹定点医療機関(小児科および内科医療を提供する300床以上の病院)から毎週患者数(入院・外来の総数)が報告されている。届出基準では「菌の分離・同定」、「抗体検出」、「核酸増幅法による病原体の遺伝子検出」、「イムノクロマト法による病原体の抗原の検出」のいずれかの検査法によってマイコプラズマ肺炎と診断された時に、届出を求めている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-38.html)。
定点当たり報告数は、2010~2019年の10年間でみると、第20週付近から増加し始め、第42週~翌年第2週の間にピークを迎える一峰性の増減がみられたが、2020~2022年の報告数は年間を通じて少なくピークも見られなかった。2024年は2019年以前とほぼ同様に、第20週付近から定点当たり報告数が増加し始めた。2024年第27~33週は継続して前週より増加し、第31~35週は、2014年以降最も多い水準で推移していた。
2024年第1~35週の定点当たり累積報告数は12.36(累積報告数5,934)であり、2014年以降の10年間の当該週において、2016年の21.89(累積報告数10,376)に次いで多かった。
地域別では、2024年第35週は46都道府県から報告があり、定点当たり報告数上位5位は愛知県(2.67)、大阪府(2.67)、兵庫県(2.50)、岐阜県(2.20)、東京都(2.08)であった。2024年第30~34週(直近5週間)の定点当たり報告数、上位5位の都道府県は大阪府、愛知県、兵庫県、岐阜県等、西日本に多かった。
2024年第1~35週までの累積報告数において、性別では男性が53.9%とやや多く、女性の報告数が多かった2019~2023年とは異なる傾向であった。年齢群別の報告数では5~9歳が43.5%(2,581例)と最も多く、次に10~19歳が30.9%(1,835例)であった。なお、2019~2024年の各年における第1〜35週の累積報告数および報告例の年齢分布を表に示す。2024年の第35週までの累積報告数における年齢分布は、2019~2023年と比較すると、累積報告数の増加に伴い0~19歳において報告数が増加した。一方で、60歳以上においては、報告数の大幅な増加は見られなかった。また、報告数の割合においては、5~9歳、10~19歳が多くなり、60歳以上が特に少なくなった。
国内外の疫学調査研究では、マイコプラズマ肺炎は3~7年程度の間隔で大きな流行が起きることが報告されている。2024年第1~35週の定点当たり累積報告数は周期的な大流行の年となった2016年に次いで多かった。また、2024年は新型コロナウイルス感染症流行前の2019年以前とほぼ同様に、第20週付近から定点当たり報告数が増加し始め、第27~33週は継続して前週より増加し、第31~35週は、2014年以降最も多い水準で推移していた。2020~2023年の報告数は年間通じて少なかったが、新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行に伴い、人々に求められていたマスク着用、手洗いの励行等、基本的な感染症対策が緩和された。そのため、マイコプラズマ肺炎の流行が今後、さらに拡大することが危惧される。より一層の注意深い監視が必要である。
マイコプラズマ肺炎の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●マイコプラズマ肺炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html
●IASRマイコプラズマ肺炎 2023年現在
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-iasrtpc/12482-527t.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)過去10年間との比較グラフ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html
●感染症発生動向調査年別報告数一覧(定点把握)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/ydata/10408-report-jb2020.html
●厚生労働省 マイコプラズマ肺炎
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html
●IDWR 2012年第39号<注目すべき感染症>マイコプラズマ肺炎
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc.html
●IDWR 2012年第35号<注目すべき感染症>マイコプラズマ肺炎
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc/2633-idwrc-1235.html
●IDWR 2012年第21号<注目すべき感染症>マイコプラズマ肺炎
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc/2263-idwrc-1221.html
●マイコプラズマ肺炎 IDWR注目すべき感染症(1999年から2011年までの記事一覧)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mycoplasma-pneumonia-m/mycoplasma-pneumonia-idwrc/1312-idwrc-1999-2011.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター