ナグビブリオによる食中毒事例について―石川県
(IASR Vol. 35 p. 135-136: 2014年5月号)
2013年9月、ニシ貝の松前漬けを原因食品、Vibrio cholerae non-O1 & non-O139(ナグビブリオ)を病因物質とする食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。
2013年9月21日(土)午後0時5分頃、能登北部保健所にS市内の医療機関からS市内の民宿に宿泊した1名が腹痛、下痢等の食中毒症状を呈し受診した旨連絡があった。
能登北部保健所の調査で、この1名を含む1グループ18名が腹痛、下痢等の食中毒様症状を呈していること、患者に共通する飲食物は、上記施設が提供した食事以外にないことから同施設を原因とする食中毒と断定した。患者は9月15~21日まで当該民宿を利用していた大学の研究室のメンバーで、学生20名のうちの18名であった。
能登北部保健所において、患者3名の糞便と食品(ニシ貝松前漬け)の検査を実施したところ、患者3名中2名からTCBS培地上で黄色コロニー、XVP培地上で淡い赤紫色のコロニーが分離された。また、食品からTCBS培地上で多数の黄色コロニー、XVP培地で多数の白色コロニーが分離された。その他の食中毒菌は陰性であった。
当センターにこれらのコロニーの精査依頼があり精査したところ、患者糞便からのコロニーは、コレラ毒素陰性のVibrio choleraeと同定された。食品のXVP培地上には、多数の白色コロニー中に淡い赤紫色の着色が7カ所みられたので、その部分をXVP培地に再分離し、淡い赤紫色のコロニーの同定試験を行った。その結果、1株がコレラ毒素陰性のV. choleraeと同定された。これらの菌株の血清型別試験を実施した結果、O1およびO139が陰性であったので、ナグビブリオとして能登北部保健所に報告し、患者2名の便由来から各々2株、食品由来の1株を国立感染症研究所(感染研)細菌第一部に送付した。その結果、患者由来菌株の血清型は、3株がO144、1株がO176であり、食品由来の菌株はO49であった。
感染研からのコメントでは、①同時期に発生したO県でのナグビブリオ食中毒でも患者からO144、食品からO49検出で同様の結果である。②食品検査では増菌を行っているため、O49が優位に増菌しO144を取り切れなかった可能性がある。とのことであった。食品からO144を検出するための再検査を実施するにあたっては、患者のO144株がvspD、vscV2を含むT3SSが陽性であるので、食品からT3SS陽性株を釣菌してO144の血清を当てる方法を提案された。食品検体の残りは無かったので、冷蔵保存してあった増菌培養液(2%塩化ナトリウム加アルカリペプトン水およびアルカリペプトン水)から、再度、TCBS培地およびXVP培地に分離を行った。これらの分離培地および冷蔵保存してあった元の分離培地からSWEEP PCRを実施した。また、保存の増菌培養液から1mL分取し、新たな増菌培養液に接種し、再度培養を行ったものからもPCRを実施したが、合計171株すべて陰性であった。
今回の原因と推定されるニシ貝松前漬けの原材料のニシ貝スライスは、N県の業者がメキシコ産のニシ貝を用いて加工されたものであった。今後、ナグビブリオによる食中毒が疑われるときには血清型の混合を意識し、特に食品検査では、増菌操作が必須であるのでより多くの菌株を釣菌し検査する必要があると思われた。
能登北部保健所食品保健課