ノロウイルス感染症とは

(IDWR 2007年第9号掲載)  ノロウイルス(Norovirus)は、電子顕微鏡で観察さ れる形態学的分類でSRSV(小型球形ウイルス)、あるいはノーウォーク様ウイルス“Norwalk-like viruses”という属名で呼ばれてきたウイルスである。2002年の夏、国際ウイルス命名委員会によってノロウイルスという正式名称が決定され、世界 で統一されて用いられるようになった。  ノロウイルスはヒトに対して嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こすが、その多くは数日の経過で自然に回復する。季節的には秋口から春先に発症者が多く なる冬型の胃腸炎、食中毒の原因ウイルスとして知られている。ヒトへの感染経路は、主に経口感染(食品、糞口)である。感染者の糞便・吐物およびこれらに 直接または間接的に汚染された物品類、そして食中毒としての食品類(汚染されたカキあるいはその他の二枚貝類の生、あるいは加熱不十分な調理での喫食、感 染者によって汚染された食品の喫食、その他)が感染源の代表的なものとしてあげられる。ヒトからヒトへの感染として、ノロウイルスが飛沫感染、あるいは比 較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もある。この場合の空気感染とは、結核、麻疹、肺ペストのような広範な空気感染(飛沫核感染) ではないところから、埃とともに周辺に散らばるような塵埃感染という語の方が正確ではないかと考えている。

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アストロウイルスによる胃腸炎集団事例―千葉県

(IASR Vol. 34 p. 205-206: 2013年7月号)

 

2013年3月に、千葉県では初めてのアストロウイルスによる胃腸炎の集団事例が2例発生したので報告する。

事例1:2013年3月18日、県南西部にある小学校において3月8日から、嘔吐、下痢、発熱症状による欠席者が増加していると保健所に報告があった。3月8~21日までの間に、全校生徒89名中20名が発症しており、職員14名に有症者はいなかった。発症割合は表1のとおりだった。主な症状は発熱、嘔吐、下痢であった。保健所でノロウイルスが検出されなかったことから、搬入された便8検体について、サポウイルス、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、アストロウイルスの検出を実施したところ、8検体すべてからアストロウイルス5型が検出された。

事例2:2013年3月21日、事例1と同一管内保育所において、3月13日ごろから、嘔吐、下痢による欠席者が増加していると保健所に報告があった。3月13~23日までの間に全園児154名中15名で有症者がみられ、職員33名に有症者はいなかった。発症割合は表2のとおりだった。主な症状は嘔吐、下痢であった。保健所でノロウイルスが検出されなかったことから、搬入された便11検体について、サポウイルス、アストロウイルスの検出を実施したところ、11検体中9検体からアストロウイルス4型が検出された。

当所におけるアストロウイルスの検出は、リアルタイムPCRを行った。遺伝子型の決定には、ORF2の5’末端側724bpの領域の系統樹解析を行った()。

2事例とも同一保健所管内の発生であるが、市町村が異なり、直接的な関連性は見出せなかった。また、どちらの事例も保健所の詳細な疫学調査によって食中毒は否定されている。

同時期に、県南部において散発の急性胃腸炎患者からアストロウイルス4型が5件検出された()。5件中4件は3月中に採取されたものであり、残りの1件は集団事例が発生した保健所管内で4月中旬に採取されたものであった。県内のその他の地域の病原体定点におけるアストロウイルスの検出は、4月初めに千葉市内でアストロウイルス4型が3例検出されていた。これらのことから、県中央部から南部においてアストロウイルスが小規模に流行していたものと考えられた。

2事例の症状をみると、事例1では発熱を訴えた有症者が、症状の確認ができた17名中11名だったのに対し、事例2では15名中1名であった。この差が、発症年齢層の違いによるものなのか、それとも遺伝子型の違いによるものなのか、要因は不明である。

アストロウイルスは、主に乳幼児に感染性胃腸炎を引き起こすウイルスとして知られており、感染性胃腸炎を引き起こすウイルスの中でも検出率は低いことも知られている。2010/11シーズン、2011/12シーズンの病原体検出情報においても、感染性胃腸炎の検体から検出されたウイルスの中でも2.5%前後であった。

アストロウイルスは、乳幼児の散発例から検出されることが多いが、今回、小学校の集団事例において検出されたことは注目すべき点である。また、高齢者施設での感染事例の報告1)があることから、検出率が低いとはいえ、注視する必要があると考える。

最後に、強化サーベイランスにご協力いただいた医療機関のみなさまに深謝いたします。

 

参考文献
1) Marshall JA, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 26: 67-71, 2007

 

千葉県衛生研究所ウイルス研究室
    堀田千恵美 小倉 惇 仁和岳史 平良雅克 小川知子
千葉県君津健康福祉センター疾病対策課  
    岡本恵子 檀谷幸子 西原有里子 橋本裕香

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