国立感染症研究所

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同一の調理従事者が勤務した複数の飲食店におけるノロウイルスGⅡ.17[P17]による食中毒事例

(IASR Vol. 42 p170-171: 2021年8月号)

 

 2021年2月, ノロウイルス感染の調理従事者が東京都内にある複数の飲食店に勤務し, 各々の店舗で同一のノロウイルス遺伝子型による食中毒事例が発生したので, その概要を報告する。

事例1

 2021年2月24日, 区内の飲食店Aから「2月22日に2名で利用した客から, 2名とも胃腸炎症状を呈している旨の連絡を受けた。」との連絡が管轄区保健所にあった。保健所が調査を行ったところ, 10グループ22名が2月22日に当該施設を利用した後に体調不良を訴えていた。有症者らは22日19時~25日11時にかけて発症しており, 主訴は, 発熱, 腹痛, 嘔吐, 下痢等であった。当該施設において, 他に感染症を疑う情報はなく, 有症者全員に共通する食事は, 当該施設で提供された食事のみであった()。

 有症者18名と飲食店Aの調理従事者6名の糞便検体および, ふきとり4検体についてノロウイルス検査を実施した結果, 有症者16名と調理従事者1名(調理従事者X)の糞便検体からノロウイルスGⅡが検出された(有症者18名のうち2名については, 他県で検査が実施され, いずれからもノロウイルスGⅡが検出された)。

事例2

 同年2月24日, 市内在住の有症者から, 「2月21日に市内の飲食店Bを2名で利用後, 2名とも胃腸炎症状を呈し, 当該飲食店で購入した握り寿司を喫食した知人も体調を崩している。」との連絡が管轄区保健所にあった。保健所が調査をしたところ, 2月21日以降に当該飲食店が調理し, 提供した食事を喫食した6グループ9名, 賄いを喫食した調理従事者およびホール担当者3名の計12名の体調不良者が確認され, 21日23時~25日13時にかけて吐き気, 嘔吐, 下痢等の食中毒症状を呈していた()。また, 調理従事者1名(調理従事者X′)が2月20日22時頃に嘔吐の症状を呈していたが, 消化不良によるものと認識し, その後症状が軽快したため2月21日は勤務し, マグロの解体等を行っていたことが判明した。

 有症者8名と飲食店Bの調理従事者6名およびホール担当者6名の, 糞便検体および有症者1名(糞便検体と重複)の吐物検体についてノロウイルス検査を実施した。その結果, 有症者6名と飲食店Bの調理従事者4名(1名は調理従事者X′, 2名は有症者に認定)およびホール担当者6名の糞便検体と有症者1名の吐物検体からノロウイルスGⅡが検出された。

 ノロウイルスが検出された飲食店Aの調理従事者Xと飲食店Bの調理従事者X′は同一人物であったことから, 当該従事者由来のノロウイルス1検体と飲食店Aの有症者2名および飲食店Bの有症者2名由来のノロウイルス4検体の計5検体について遺伝子型別を実施した。増幅用プライマーにMon431とG2-SKRを使用したPCRダイレクトシークエンス法1)により得られたノロウイルスの遺伝子配列をNorovirus Genotyping Tool Version 2.0(https://www.rivm.nl/mpf/typingtool/norovirus/)で解析した結果, 遺伝子型はGⅡ.17[P17]に分類され, 5検体の塩基配列(527塩基)は100%一致した。また, 都内における他の食中毒事例から検出されたGⅡ.17[P17]と比較したところ, 同解析領域で100%一致する事例が複数確認された()。このことから, 調理従事者Xは何らかの感染経路によって, 同時期に市中で流行していたウイルス株に感染したと考えられる。

 事例1の飲食店Aおよび事例2の飲食店Bでは, 調理従事者の自己申告による健康チェックを実施していたが, 飲食店Aにおける点検表に体調不良がある旨の記録はなく, 飲食店Bの2月18日~22日までの健康管理票にも体調不良者の記録はなかった。調理従事者Xも調理作業に従事する時点では, すでに回復していたことから体調不良の記録がなされていなかったと考えられるが, 症状を呈した1~2日後に2カ所の飲食店に従事し, 食中毒発生に繋がった。

 大量調理施設衛生管理マニュアル2)では, 「責任者は, ノロウイルスの無症状病原体保有者であることが判明した調理従事者等を, 検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間, 食品に直接触れる調理作業を控えさせるなど適切な措置をとることが望ましい」としている。今回の事例は大量調理施設ではないが, 胃腸炎症状等の体調不良から回復した後もノロウイルスの排出が継続し, 食中毒を起こす可能性があることの周知や, 調理従事者の健康管理体制や, 体調不良時および回復後の一定期間は調理作業に従事しない体制作りが重要であることが示唆された。

 

参考文献
  1. Cannon JL, et al., JCM 55: 2208-2221, 2017
  2. 大量調理施設衛生管理マニュアルの改正について(平成29年6月16日)
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000168026.pdf

東京都健康安全研究センター微生物部
 永野美由紀 長島真美 浅倉弘幸 矢尾板 優 長谷川道弥
 藤原卓士 三宅啓文 千葉隆司 鈴木 淳 貞升健志            
東京都健康安全部食品監視課    
 舘山優乃 西野孝洋       
東京都多摩立川保健所       
 清水永之 多米幸子 小坂めぐみ 
豊島区池袋保健所         
 本望 航 

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