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飲用水からノロウイルスGI.6が検出された食中毒事例―福岡県

(IASR Vol. 37 p. 159-160: 2016年8月号)

2016年2月に, 福岡県内の飲食店において, 飲用水が原因と疑われるノロウイルスによる食中毒事例が発生したので, その概要について報告する。

事例の概要

2016年2月, 同一の飲食店を利用した202名のうち174名(発病率86.1%)が嘔吐, 下痢, 発熱等の症状を呈しているとの報告が管轄保健所にあった。患者は2月3日~18日にかけて当飲食店を利用し, 2月5日~19日にかけて発病した(図1)。潜伏期間は30~36時間が最も多かった(図2)。飲物を含めた喫食状況調査では, 冷緑茶のオッズ比(15.1, 95%信頼区間: 1.3-174.3)が高いことから, 冷緑茶が原因食品として疫学的に推定された。当飲食店では飲用水として井戸水を使用し, 冷緑茶の水は蛇口に取り付けた浄水器を通した水を使用していた。浄水器は使用期限内のものを使用し, その濾材は活性炭, 中空糸膜, イオン交換体であり, 遊離残留塩素等を除去するためのものであった。井戸水の塩素消毒は行われていなかった。

原因の究明

有症者便6検体, 従事者便4検体, 施設ふきとり5検体, および浄水器を通した井戸水である飲用水1検体のノロウイルスおよび食中毒細菌の検査を実施した。糞便および施設ふきとり検体のノロウイルス検査は影山ら1)の示す, G1SKF/G1SKRおよびG2SKF/G2SKRプライマーを用いたRT-PCR法を用いた。その結果, すべての糞便(10検体)がノロウイルスGI陽性であった。さらに有症者便1検体および従事者便1検体はノロウイルスGII陽性であった。検出されたPCR産物はダイレクトシークエンス法を用いて塩基配列を決定し, 参照株と比較した結果, GI.6およびGII.17に分類された。施設ふきとり検体はすべてノロウイルス陰性であった。

飲用水はまず陰電荷膜吸着誘出法2)により濃縮した。飲用水2Lをサンプルとして遠心し, 上清に塩化マグネシウムを添加, pH3.5に調整後, 加圧ろ過により陰電荷膜にウイルスを吸着させ, ビーフエキストラクト液10mLで誘出し, RNAを抽出した。抽出RNAを用いてリアルタイムRT-PCR法により定量した結果, 1.1×103コピー/100mLのノロウイルスGI遺伝子が検出された。また, COG1F/G1SKRおよびG1SKF/G1SKRプライマーを用いたNested RT-PCR法によりノロウイルスGI遺伝子を増幅し, 遺伝子型を分類した結果, GI.6に分類された。さらに, 糞便および飲用水から検出されたノロウイルスGI.6の塩基配列を比較した結果, 比較可能な221塩基は100%一致した。

細菌検査では, 糞便および施設ふきとり検体はすべて陰性であった。飲用水は大腸菌群陽性, 大腸菌陽性, 一般細菌数75/mLであった。

まとめ

本事例は飲用水が原因と疑われるノロウイルスGI.6による食中毒事例であると考えられる。過去にもノロウイルスにより汚染された井戸水が原因で発生した食中毒事例は報告されている3,4)。井戸水使用が多い地域には特に飲用水の衛生管理に対する啓発も必要と考えられた。

 

参考文献
  1. Kageyama, et al., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
  2. ポリオウイルス感染症の実験室診断マニュアル
  3. 田村, 他, IASR 26: 330-331, 2003
  4. 徳竹, 他, 感染症誌 80: 238-242, 2006

福岡県保健環境研究所
 吉冨秀亮 芦塚由紀 中村麻子 小林孝行 濱﨑光宏 世良暢之 梶原淳睦
福岡県保健医療介護部保健衛生課
 清水良平 岡本健太郎 友枝哲宏
南筑後保健福祉環境事務所
 森 一也 松尾寿子

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