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同一検体からサポウイルスとアストロウイルスが重複検出された胃腸炎集団事例―宮城県

(掲載日 2016/3/2) (IASR Vol. 37 p. 54-55: 2016年3月号)

2015年12月に県内の保育所で、サポウイルス(SaV)とアストロウイルス(AsV)の重複感染が疑われる胃腸炎の集団事例が発生したので、その概要について報告する。

2015年12月9日に、当該施設職員より嘔吐、下痢の症状を示す園児が複数名いるとの連絡が管轄保健所にあった。保健所が疫学調査したところ、12月5日~9日までに、嘔吐、下痢の症状を呈している者が13名(すべて園児)いた。初発患者(推定)は1歳児で、12月5日に0・1歳児クラス内で嘔吐が確認されている。6日には患者の発生はなかったが7日~11日にかけて18人に胃腸炎症状がみられた。その後散発的な胃腸炎発症はみられたが、12月20日以降、新たな患者発生はみられなかった。また、発症者はすべて園児で、職員の発症は確認されなかった。本事例においては、園児88名中(男45名、女43名)、23名(男12名、女11名)に胃腸炎症状が確認され、中でも0~1歳児の発症者が14名(男11人中10名、女7人中4名)と多く、他の年齢群(2歳児16人中3名、3歳児16人中2名、4歳児18人中1名、5歳児20人中3名)より多かった。

病原体検索のため、12月10日に園児4名の糞便が当センターに搬入された。まず、LAMP法によりノロウイルス(NoV)遺伝子の検出、加えて市販イムノクロマトのキットによりA群ロタウイルス(RVA)とアデノウイルス(AdV)の検出を行ったが、すべて陰性であった。

次にSaVとAsVの検索を行った結果、4名全員からSaVとAsVが検出された。SaVは、Kitajimaらの方法1)でウイルスカプシドをコードしている遺伝子の一部の領域を増幅するRT-PCR法で検出を行い、AsVは国立感染症研究所のウイルス性下痢症検査マニュアル2)に準じてカプシド領域をRT-PCR法にて検出を行った。得られた増幅産物はダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。4名全員からSaV遺伝子とAsV遺伝子が検出されたことから、本事例は両ウイルスによる重複感染事例であることが示唆された。近隣結合法により、今回検出されたSaV遺伝子とAsV遺伝子の系統解析結果をそれぞれ図1図2に示す。検出されたSaVの遺伝子型はGⅠ/1型、AsVは1型であることが推定された。また、各症例から検出された両ウイルス株の解析部位の塩基配列は100%一致した。

これまでにも同一人から複数の異なるウイルスが検出された感染性胃腸炎事例は報告されており3)、本事例では、ほぼ同時期に下痢症所見を示した複数名よりSaVとAsVが同時に検出されたことから、両ウイルスによる重複感染の可能性が示唆された。

今回の事例は、同一人から複数のウイルスが検出された事例であることから園内での感染の拡大や長期化も懸念されたが、12月20日以降新たな感染者は現れず、終息が確認された。

胃腸炎事例では重複感染が病態に及ぼす影響については明らかではない。SaV、AsVは一定の頻度で不顕性感染が認められており、本事例も、胃腸炎症状が単一病原体に起因するものか重複感染によるものか、明らかではない。早急に病原体を特定する上でも、さらには感染性胃腸炎の重複感染による病態を詳細に検討する観点からも、病原体検索に複数のウイルス遺伝子を同時に検出できるmultiplex PCR法などの検査方法は、有用であると思われる。

 
参考文献
  1. Kitajima M, et al., Appl Environ Microbiol 76: 2461-2467, 2010
  2. 国立感染症研究所,ウイルス性下痢症検査マニュアル(第3版), 2003
  3. 田中俊光,他,IASR 26: 122-123, 2005
 
宮城県保健環境センター
 鈴木優子 木村俊介 菅原直子 佐々木美江 植木 洋 渡邉 節
塩釜保健所疾病対策班
 

 

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