国立感染症研究所

新しい百日咳サーベイランスによる国内の百日咳の疫学(2018年疫学週第1週~16週)

国立感染症研究所 感染症疫学センター・同細菌第二部
2018年5月1日現在
(掲載日:2018年5月17日)

百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)が気道に感染することにより、約7~10日間の潜伏期間を経てカタル症状で発症する。その後長く続く咳嗽に加え、連続性の咳嗽発作や咳嗽後の嘔吐、吸気性の笛声(whoop)といった特徴的な症状を呈する。合併症として二次性の肺炎やけいれん、脳症などを合併することがあり、特にワクチン未接種の乳幼児が罹患すると重篤化し易い。新生児やワクチン未接種の乳児が発症すると咳が明確でないまま重篤な無呼吸発作などを起こし、それに伴いチアノーゼやけいれんを認めることがある。半数以上が呼吸管理のため入院加療となったとの報告や死亡例の情報もあった1)

2017年12月31日まで、百日咳は感染症法上の第5類感染症定点把握対象疾患であった。全国約3,000の小児科定点医療機関において診断された百日咳患者の年齢(群)、性別が毎週報告され、累積患者数、流行状況などを把握する重要な情報源として活用されてきた。しかし、小児科定点からのみの報告であり、感染源や予防接種歴などの情報は不明であるなどの制限があった。また、届出基準が臨床診断(2週間続く咳嗽と特徴的な咳嗽)のみであり、重症例でありながら届出基準を満たさず報告されなかった患者、定点以外で発生した集団発生などに含まれる患者などを含め、正確な百日咳の疫学把握は困難であった2)

より正確な国内の百日咳の把握の必要性が高まるなか、わが国では特異度の高い検査法として百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)が開発され3)、同検査の健康保険適用認可などの環境も整ったこともあり、2018年1月1日から国内の百日咳サーベイランスは全医療機関対象の全数把握へと変更された。以下2018年1月1日から4月22日まで(2018年第16週まで)の百日咳サーベイランスの結果のまとめを報告する。

報告対象期間に感染症発生動向調査(NESID)へ1,023例の百日咳の報告があった(2018年5月1日現在)。そのうち、感染症法上の届出基準を満たし、かつ、「感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)(以下、届出ガイドラインと略す。)」4)において示された基準の考え方に合致するとみなされた患者は842例(82.3%)であった。届出ガイドラインの基準を満たした患者の年齢分布を図1に示す。うち、初回ワクチン接種前の時期を含む6か月未満児(6%)、9歳をピークとした5歳から15歳未満までの学童期の小児(58%)、さらには30-50代の成人(19%)の年齢群において集積がみられた。全体の45%に当たる377例が百日咳含有ワクチンの4回接種歴があり、5-15歳未満に限定するとその割合は67%(324/485例)にまで上昇した。

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図1.百日咳症例の年齢分布と予防接種歴(2018年第1週~第16週)(n=842*)
*百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)に則った症例に限定
https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/610-disease-based/ha/pertussis/idsc/7994-pertussis-guideline-180425.html

確定診断例の診断方法は単一血清抗体価高値が52%と最も多く、次いで遺伝子検査が39%、ペア血清による有意な抗体価上昇が3%、分離同定2%、臨床診断+疫学的リンク1%となっていた。単一血清抗体価高値で診断された535例のうち、届出ガイドラインの基準を満たす検査(抗PT-IgG抗体100 EU/mL以上、百日咳IgM/IgA抗体のいずれか、あるいは両方陽性)は385例(72%)であった。届出ガイドラインの基準を満たさない症例は不十分な単一血清抗体価の情報(抗FHA抗体の上昇、抗PT-IgG抗体値は10 EU/mL以上100EU/mL未満)に基づいて届出られていた。血清抗体価に基づく診断としては、出来るだけペア血清を用いることが望ましい。届出ガイドラインの基準を満たす症例を年齢別に実施した検査方法の割合をみると、小児では菌遺伝子検査の実施割合が高く、年齢が上がるにつれて単一血清抗体価による診断例の割合が増加していた(図2)。わが国では、以前のPCR法よりさらに感度、特異度の高いLAMP法が保険収載されており、より正確な百日咳の診断に有用であることから、検体採取時期に応じて積極的に病原診断を行うことが推奨される。また、サーベイランスの趣旨としては、百日咳としてより確かな患者についての報告を集積することに主眼があることも重要である。

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図2.年齢群別の診断検査法の割合(2018年第1週~第16週)(n=842*)
(*)百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)に則った症例のみを抽出

重症化のリスクが高い6か月未満児の状況に着目すると、調査期間中52例の報告があり、うち届出ガイドラインの基準を満たしたのは47例であった。除外の5例はすべて単一血清抗体価で診断されていたが、抗PT-IgG抗体値は100 EU/mL未満であった(この年齢群における血清学的診断は国際的にも推奨されていない)。47例のうちワクチン未接種者が32例(68%)存在し1回目の4種混合ワクチン接種前の時期に当たる3か月未満児の症例が25例(53%)含まれていた。また、6か月未満児の症例の感染源は同胞が最も多く(32%)、次いで両親(父親、母親ともに23%)、祖父母(4%)と報告されていた。

今回報告された百日咳患者(届出ガイドラインの基準を満たした例)の52%が5歳以上15歳未満、34%が20歳以上の成人であった。うち、特に学童期の患者の大多数は、百日せきワクチンの4回接種が完了していた。罹患すると重症化するリスクの高い6か月未満の患児の感染源の多くが兄姉や両親であったことを考えると、百日咳含有ワクチンの追加接種の必要性が高いと考えられた。

百日咳のサーベイランスが原則として検査診断による全数報告に変更されたことにより、これまで情報が不十分であった成人の百日咳や、診断方法、予防接種歴、さらには重症化のリスクが高い6か月未満児症例の感染源に関する情報が得られるようになった。これにより国内のより具体的な百日咳の疫学の把握が可能となり、必要な対策や正確な診断への課題などが明確になりつつある。今後さらに精度の高いサーベイランスデータの構築とそれに基づいた予防策の提言、実施が重要である。

 

関連資料 2018年第1週から第16週(*)に報告された百日咳感染症のまとめ(2018年第16週週報データ集計時点)

 

【参考文献】

  1. Kilgore PE, Salim AM, Zervos MJ, Schmitt HJ. Pertussis: Microbiology, Disease, Treatment, and Prevention. Clin Microbiol Rev. 2016. 29: 449-86.
  2. 国立感染症研究所「百日せきワクチンファクトシート」平成29(2017)年2月10日
  3. Kamachi K, Toyoizumi-Ajisaka H, Toda K, Soeung SC, Sarath S, Nareth Y, Horiuchi Y, Kojima K, Takahashi M, Arakawa Y. Development and evaluation of a loop-mediated isothermal amplification method for rapid diagnosis of Bordetella pertussis infection. J Clin Microbiol. 2006. 44:1899-902.
  4. 百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/610-disease-based/ha/pertussis/idsc/7994-pertussis-guideline-180425.html

 


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