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おにぎりを原因食品とするA群溶血性レンサ球菌による集団食中毒事例―愛媛県

(IASR Vol. 34 p. 266-267: 2013年9月号)

 

2012年8月、愛媛県内の1保健所管内で食中毒を疑う事案が発生し、疫学調査および病因物質の検査を実施したところ、A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒であることが判明したので、その概要を報告する。

事例概要:2012年8月18日、管内の医療機関から西条保健所へ「8月13~18日の間、発熱、咽頭痛等の症状を呈している15名の患者を診察した。」との届出があった。患者は8月12日に行われた自治会主催の夏祭りで提供された食品を喫食しており、保健所は集団食中毒または感染症の発生を疑い、疫学調査等を実施した。

調査の結果、喫食者89名のうち発症者は46名(男性17名、女性29名)で、発症者の年齢は7~70歳であった。症状別発症者数を表1に示した。主症状は、発熱、咽頭痛、悪寒であり、腹痛、吐き気などの消化器症状を訴えた患者は少なかった。潜伏時間は、6.5~112時間であり、流行曲線は24~36時間を中心とするほぼ一峰性の患者発生パターンを示した。発症者全員に共通する食品は飲食店が調理し、夏祭りで販売されたおにぎりのみであり、当該事案はこのおにぎりを原因食品とする集団食中毒であると断定された。

検査結果:食中毒の病因物質特定のため、患者(便検体19件、咽頭ぬぐい液5件)、調理従事者(便検体、咽頭ぬぐい液、手指のふき取り検体各2件)、調理施設・調理器具(ふき取り検体13件)を対象に、A群溶血性レンサ球菌の他、サルモネラ属菌、セレウス菌等の食中毒菌10菌種およびノロウイルスについて検査を実施した。

その結果、患者の咽頭ぬぐい液3件、調理従事者の咽頭ぬぐい液・手指のふき取り検体各1件、調理器具のふき取り検体1件から、A群溶血性レンサ球菌(TB3264型)が分離された。黄色ブドウ球菌は、調理従事者便・手指のふき取り検体各1件、施設のふき取り検体1件から分離された。

以上の検査結果と患者の症状、潜伏時間などの疫学調査の結果から、当該食中毒の病因物質は、A群溶血性レンサ球菌と断定された。

分離されたA群溶血性レンサ球菌について、細菌学的検討を行った。分離株6株はすべて、speBspeCspeFの発赤毒素遺伝子を保有しており、emm遺伝子型は89型であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析は、制限酵素Sma IおよびSfi Iを用い、DNA切断パターンの比較を行った。今回の食中毒事例株の他に、県内の感染症発生動向調査で分離されたA群溶血性レンサ球菌5株(以下、感染症由来株)を併せて、PFGE解析を実施した。解析結果は図1に示した。食中毒事例株6株は、制限酵素Sma I およびSfi I によるPFGEパターンがそれぞれ一致し、同一由来株であることが考えられた。また、他の感染症由来株とは異なるグループに分けられた。

原因食品については、残品がなく、検査が実施できなかったが、調理従事者の咽頭ぬぐい液、手指のふき取り検体からA群溶血性レンサ球菌が分離されていることから、調理従事者により汚染された食品を喫食したことが原因と推察された。

考 察
原因食品であるおにぎりの調理工程や取り扱いについて調査した結果、咽頭ぬぐい液と手指のふき取り検体からA群溶血性レンサ球菌が分離された調理従事者は、手指に化膿創があるにもかかわらず、使い捨て手袋の着用等食品の汚染防止対策を講じていなかったこと、午前中に調理後、提供される夕方までの保管温度が不適切であったことが判明した。今回の事例では、冷房による温度管理が不十分な部屋で汚染されたおにぎりを長時間放置したことにより、菌が増殖したと考えられた。分離されたA群溶血性レンサ球菌の細菌学的検討の結果は、疫学調査を裏付ける結果であった。

食中毒防止のため、施設の清掃・消毒などの基本的な衛生管理の指導の他、調理従事者の健康管理の重要性についても十分に周知することが必要であると考えられた。

 

愛媛県立衛生環境研究所
         林 恵子 松本純子 山下育孝 烏谷竜哉 服部昌志  大倉敏裕  四宮博人
愛媛県西条保健所   
         伊藤樹里 大内かずさ 山内宏美 大西利恵   豊嶋千俊 山本真司 井上 智 越智幸枝    
         吉江里美 岡本哲也 上満祐子 伊藤弘子   川村直美 青木紀子 佐伯裕子 桑原広子   
         新山徹二 
(平成24年度の所属による)

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