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母体の乾燥胎盤含有カプセルの摂取に関連した新生児遅発型B群溶血性連鎖球菌感染症, 2016年―米国オレゴン州

(IASR Vol. 38 p.207: 2017年10月号)

2016年9月, 米国オレゴン州で, 早発型B群溶血性連鎖球菌(GBS)菌血症の治療完了(11日間のアンピシリン投与)の5日後に遅発型GBS菌血症を発症した新生児症例が報告された。児は満期産児で, 妊娠中の合併症はなく, 妊娠37週時点での母体の膣・直腸培養はGBS陰性であった。また, 搾乳した母乳からもGBSは検出されなかった。

その後, 児の母の求めにより出産時に採取され, A社で加工された自家胎盤組織(プラセンタ)カプセルを出産3日後から摂取していたことが判明し, カプセルのサンプルを培養したところGBSが検出された。

2回の菌血症の際に血液培養から検出された各株, および胎盤カプセル由来株の計3株のGBSはパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)で区別ができず, CDCで実施された全ゲノム解析では, いずれも血清型III型, MLST型はST17であり, 3つの株間でSNPs(1塩基多型;single nucleotide polymorphisms)は認められなかった。本児は母以外の保菌家族からの伝播も否定はできないものの, 母親がGBSに感染した自家胎盤組織を摂取したことによる高濃度保菌に起因した遅発型GBS菌血症と考えられた。

胎盤摂取の有用性を支持する科学的確証はないが, 近年, 身体および心理的な利益のために産後の女性に胎盤の摂取が行われる場合があった。A社の場合, 利用者はサービスに登録する際, ヒト免疫不全ウイルス感染/後天性免疫不全症候群, 肝炎, ヘルペス, クラミジア, 梅毒およびライム病の既往歴について報告するが, 同社は出産前後の感染に関しては問わない。胎盤組織はそのまま摂取, もしくは調理, 乾燥, 保存, その他の方法で調製されている。A社のウェブサイトによると, 胎盤は洗浄, スライスされ, 115~160°F(46~71℃)で乾燥後, 粉砕されて約115~200個のゼラチンカプセルに入れられ, 室温で保存される。

胎盤を摂取するための処理基準は存在しない。サルモネラの菌数を100万分の1に減らすには, 130°F(54℃)で121分間加熱する必要がある。今回の事例ではGBSの菌量を減らすのに十分な温度と時間の加熱ができていなかった可能性が考えられた。汚染された胎盤カプセルの摂取は, 母体の腸および皮膚へのGBSの定着を増加させ, 新生児への伝播を促進する可能性がある。

摂取用の胎盤処理に関する基準はなく, 胎盤をカプセル化する過程自体は病原体を死滅させるものではない。したがって, 胎盤摂取は避けるべきである。

母体のGBS保菌, 絨毛膜炎, または早発型新生児GBS感染症がある場合, GBSで汚染された胎盤を含有するカプセルを摂取することで, 母体の腸内や皮膚へのGBSの定着が増え, 結果として新生児へ伝播しやすくなり, 遅発型新生児GBS感染症のリスクが高まる可能性がある。遅発型GBS感染症の場合には, 医師は母親の胎盤摂取歴を調べ, 胎盤カプセル化に関心のある母親に胎盤摂取の潜在的なリスクについて教育するべきである。

 

〔CDC, MMWR 66(25): 677-678, 2017〕
(抄訳担当:感染研感染症疫学センター・森野紗衣子, 砂川富正)

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