国立感染症研究所

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米国ニューヨーク州での麻痺性ポリオ症例発生と環境水からのポリオウイルス検出を受けての公衆衛生対応―2022年6~8月

(IASR Vol. 43 p263-264: 2022年11月号)
 

 2022年7月18日, ニューヨーク州保健局(NYSDOH)は, ニューヨーク州ロックランド郡においてポリオワクチン未接種で, 急性弛緩性麻痺を呈した若年成人の便検体からワクチン株由来2型ポリオウイルス(VDPV2)が検出されたと米国疾病予防管理センター(CDC)に報告した。

 患者は急性弛緩性脊髄炎(AFM)疑いで入院し, VDPV2は発症後11日目と12日目に採取された便検体から検出された。また現在までに, 患者の発症日の25日前~41日後までの期間に採取されたロックランド郡とオレンジ郡の環境水から, ワクチン株である2型Sabin株由来のVDPV2が検出されている。米国の野生型ポリオウイルス(WPV)による最後の患者の発生は1979年であり, 世界保健機関(WHO)のアメリカ地域事務局は1994年にポリオ根絶を宣言した。

調査結果

 患者はに示すように, 2022年6月に5日間の微熱, 首のこわばり, 背部痛, 腹痛, 便秘があり, 2日間の両下肢脱力の症状を呈し, AFMの疑いで入院した。発症から16日後, 残存する下肢麻痺のためリハビリ施設へ転院した。NYSDOHおよびCDCが, 便検体を用いてRT-PCRおよびシーケンスを行ったところ, 2型ポリオウイルス(PV2)が同定された。追加の塩基配列を決定したところ, このウイルスがVDPV2であること, さらにVP1領域の塩基配列は2型Sabin株の当該配列から10塩基の変異があること, から伝播地域は不明であるが最大1年間, 伝播していたことが示唆された。麻痺性ポリオの潜伏期間は一般的に麻痺発症の7~21日前とされるが, 疫学調査によると, 患者は発症8日前に大規模集会に参加していた。海外渡航歴はなかった。

公衆衛生対応

 上述の報告を受け, CDC, NYSDOH, および地元保健当局は, 7月18日に調査と対応を開始した。7月22日にNYSDOHによる勧告の発出, 疑い例探知のためのサーベイランス強化, ロックランド郡とその周辺郡での環境水検査, 患者のコミュニティでのワクチン接種率の評価と不活化ポリオワクチン(IPV)の供給, ワクチンクリニック開設を行った。強化サーベイランスでは, 2022年5月1日以降にニューヨーク州の特定の郡, 近隣に居住または旅行した者, 国外旅行をした者を調査対象者(PUI)と定義した。8月10日時点で3名が調査対象者に同定され, 入手可能な検体(便, 脳脊髄液, 血清, 鼻咽頭・口腔咽頭スワブ)を検査したがポリオウイルスは陰性であった。8月10日時点で, ロックランド郡とオレンジ郡の排水処理場の260検体中, 21検体(8%)からポリオウイルスが検出された(ロックランド郡13検体, オレンジ郡8検体)。5月, 6月, 7月に環境水から採取された20検体は, 患者から検出されたウイルスと遺伝子的に関連していた。

 ロックランド郡に住む生後24か月未満の小児のポリオワクチン3回接種率は, 67.0%(2020年7月)から60.3%(2022年8月)へ低下した。2017~2018年に生まれた乳児の生後24か月までの全国のIPV接種率は92.7%であった。ロックランド郡保健局は, 2022年7月22日に郡全体でワクチン接種キャンペーンを開始したが, IPV接種率の有意な上昇に至っていない。

考 察

 現在のところVDPV2の起源は不明である。米国は2000年に経口弱毒生ポリオワクチン(OPV)の接種を停止していること, 患者に潜伏期間中の渡航歴はないことから, 国外の2型経口生ポリオワクチン(OPV2)被接種者に起因した市中感染であることが示唆されている。検出されたポリオウイルスは, 遺伝子配列の比較からイスラエルと英国の環境水から検出されたVDPV2との関連が確認された。8月10日現在, 新規患者は報告されていないが, 患者由来のウイルスと遺伝子配列的に関連のあるVDPV2が, 2カ月以上環境水から検出されていることから市中感染が継続中であると考えられ, 患者が居住する郡でのワクチン接種率が低い地域で, 新たに麻痺性ポリオ患者が発生する可能性がある。世界中でポリオウイルスの根絶が達成されるまでは, WPVとVDPVの両方が米国に輸入される可能性があり, 米国のすべての人は, 麻痺性ポリオを予防するためにIPV接種の推奨について最新の情報を入手する必要がある。


出典: CDC, MMWR 71(33): 1065-1068, 2022
  https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7133e2.htm
    抄訳担当: 国立感染症研究所    
           実地疫学専門家養成コース
            越湖允也       
          実地疫学研究センター  
           島田智恵

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