(IASR Vol. 35 p. 52: 2014年2月号)
ポリオ常在国3カ国の一つであるパキスタンでは、野生株ポリオウイルス(WPV)感染症例は、2011年198例、2012年58例、2013年は1~9月に52例と減少した。しかし、2012年1月以降のWPV感染症例110例のうち、92例(84%)は紛争地域である連邦直轄部族地域(FATA)およびカイバル・パクトゥンクワ(KP)州で発生しており、報告は年々これらの地域に集中してきている。WPV感染症例110例のうち96例(87%)は36カ月未満で、45例(41%)は経口ポリオワクチン(OPV)未接種、16例(15%)は3回以下の接種で、4回以上接種者は45例(41%)のみであった。2013年1~9月のWPV感染症例52例からはすべて1型ポリオウイルスが分離された。また、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス[cVDPV、OPVの接種率が不十分な地域で出現する伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)]は2012年1月以降52例が報告されている。本事例におけるcVDPVは2型であった。cVDPVは2012年にバロチスタン州から14例報告された後、国内の他地域に広がり、2013年にはFATAで30例規模の流行を起こし、この流行は現在もまだ続いている。このcVDPV 52例のうち、47例(90%)は36カ月未満で、26例(50%)はOPV未接種、4回以上のOPV接種者は17例(33%)のみであった。WPV3型は、2011年に2例、2012年にFATAから3例報告されたが、2012年4月を最後に報告はない。急性弛緩性麻痺(AFP)症例のうち適切な便検体が採取された症例の割合はパキスタン全体で89%、FATAは73%、KP州は85%、15歳未満の10万人あたりの非ポリオAFP(NPAFP)率はパキスタン全体で6.3、FATAは7.9、KP州は9.1であった(AFPサーベイランスは、適切な便検体が採取される割合が80%以上であることと、NPAFP率が1.0以上であることを基準に評価される)。
2012年の国内の1歳未満の乳児への3回の経口ポリオワクチン(OPV3)の接種率は89%であったが、2012年のNPAFP率の結果からは、接種率はもっと低いものと考えられる。月齢6~23カ月のNPAFP症例におけるワクチン接種率はパキスタン全体で65%、バロチスタン州で28%、FATAで38%、KP州で57%であった。2012年1月~2013年9月に、5歳未満の子供を対象に、全国的な補足的ワクチン接種活動(SIAs)が7回、地域のSIAsが9回実施された。しかし、2012年1~7月までの対象者のうち、15%(約17万人)は主にFATA居住者であるなどからSIAsが行えなかった。SIAsが行えなかった対象者の数は2013年には33~35%(37万7千人~40万人)へと増加した。これは、地方政府のワクチン接種禁止令(南北ワジリスタン)およびポリオ接種従事者への攻撃(2012年7月以降22人のポリオ対策従事者と4人の警官がFATA、KP州、カラチでの活動中に死亡)が原因である。
最近のイスラエルやシリアでのポリオ流行のウイルス株は2012年のパキスタンの株と遺伝的に関連していた。このことは、パキスタンの紛争地域はパキスタン国内のみならず、全世界的なポリオ根絶計画への大いなる脅威となっていることを示している。パキスタンでのポリオ流行を止めるためには、人道的、宗教的、そして政府の関与によるさらなる努力が必要である。
(WHO, WER, 88(47): 501-508, 2013)