印刷

疑似症定点医療機関からの届出状況のまとめ(2015(平成27)年7月10日~2016(平成28)年12月31日)

国立感染症研究所 感染症疫学センター
(掲載日:2017年10月24日)

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」 第14条第1項に規定する厚生労働省令で定める疑似症(以下 「疑似症」 という)の届出状況について以下にまとめる。なお、これは、IASR 2016年5月号に掲載された、「疑似症定点医療機関からの届出状況のまとめ」の続報である。 

疑似症届出制度は, 2007(平成19)年4月1日から, 生物テロを含む感染症の発生を迅速に把握するため, 医師の確定診断以前の、疑似症の診断の段階で情報を収集するべく, 指定届出機関による疑似症患者の年齢, 性別等の情報の届出制度として規定されたものである。具体的には, 同疑似症には2つのカテゴリーがあり, 摂氏38度以上の発熱及び呼吸器症状(明らかな外傷又は器質的疾患に起因するものを除く)を一号, 発熱及び発しん又は水疱を二号と表記する。ただし, 感染症法に基づく届出基準等及び感染症発生動向調査実施事業実施要項に基づき, 当該疑似症が二類感染症, 三類感染症, 四類感染症又は五類感染症の患者の症状であることが明らかな場合を除く, とされる。小児科または内科を標榜する医療機関が第一号疑似症定点として, また, 小児科, 内科または皮膚科を標榜する医療機関が第二号疑似症定点として, 保健所管内人口から算定された数に応じて指定され, 本サーベイランスが開始された。

2007(平成19)年11月~2015(平成27)年7月までの期間,疑似症定点医療機関が感染症サーベイランスシステム(NESID)への入力による届出を実施していたが,平成27年7月10日から現在まで、疑似症定点からの情報を保健所が把握し、システム上に入力を行う方法が用いられている。今回,届出方法の変更があった2015(平成27)年7月10日~2016(平成28)年12月31日までの届出状況に関してまとめた。

一号疑似症定点からの届出数:全国で累計1,355件の届出がなされた。集計の年齢区分は0歳, 1歳, 2~3歳, 4~5歳, 6~7歳, 8~9歳, 10~14歳, 15~19歳, 20~29歳, 30~39歳, 40~49歳, 50~59歳, 60~69歳, 70~79歳および80歳以上となっている。年齢区分を0~9歳群, 10~59歳群および60歳以上群の3群に分類した場合, 各群の届出数(割合)は0~9歳群が751件(55.4%), 10~59歳群が214件(15.8%), 60歳以上が群390件(28.9%)であった。

年ごとの届出件数は, 2015(平成27)年(7月10日~12月31日まで)は537件(2015年1年間では,1,369件),2016(平成28)年は818件であった。都道府県別では, 期間中1件以上の届出があった自治体は5都府県で, 自治体ごとの累計届出数は2~1,083件(中央値115件)であった。

二号疑似症定点からの届出数:全国で累計958件の届出がなされた。集計の年齢区分は一号と同様であるが, 上記と同様に患者年齢を3群に分類した場合, 0~9歳群が690件(72.0%), 10~59歳群が197件(20.6%), 60歳以上群が71件(7.4%)であった。年ごとの届出件数は, 2015(平成27)年(7月10日~12月31日まで)が357件(2015年1年間では,603件),2016(平成28)年が601件であった。都道府県別では, 期間中1件以上の届出があった自治体は9都道府県で, 自治体ごとの累計届出数は1~931件(中央値1件)であった。

各都道府県が指定した疑似症定点の総数や診療科の内訳の情報が得られていないこと, また, 自治体規模が異なることを考慮しても, 一号, 二号それぞれの疑似症定点からの届出数は, ともに都道府県ごとの届出数として, 依然大きなばらつきが観察されており, 自治体ごとに本サーベイランスの運用状況が異なる可能性がある。今後, その要因と改善について検討を行うことが必要であろう。

本サーベイランスの目的は先に述べた通りである。届け出られる情報を国, 都道府県等において常時監視することにより, 原因不明の感染症を含め, 国民の健康に対する脅威を早期に発見し, 迅速に対応することが可能となる。また、これは大規模スポーツ大会やサミット等多数が参加する行事(マスギャザリング)が行われる際に, アウトブレイクなどの異常な事象(イベント)の発生を早期に探知することを目的とするイベントベースサーベイランスとしても有用なツールにもなる可能性もある。実際、2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットにおいては, 医療機関におけるイベントベースサーベイランスのプラットフォームとして活用された。

今後も,国レベルでの届出状況については,定期的にフィードバックしていく予定である。

 


「感染症サーベイランス情報のまとめ・評価」のページに戻る

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan