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狂犬病ワクチン:WHOポジションペーパーの更新

(IASR Vol. 39 p106: 2018年6月号)

狂犬病予防接種に関する世界保健機関(WHO)の推奨が, 2010年のWHOポジションペーパーから更新された。この更新は, 狂犬病と狂犬病ワクチンの新たなエビデンスに基づき, プログラムの実現性, ワクチンスケジュールの単純化, 費用対効果の改善に重点を置いている。この推奨は, 2017年10月Strategic Advisory Group of Experts on immunization(SAGE)により協議された。

狂犬病はウイルス性人獣共通感染症であり, 発症すると急性進行性脳炎を呈し, 通常致命的であり, 年間59,000人が死亡していると推定されている。症例の多くがアフリカ, アジアで発生し, 約40%が15歳未満の小児である。狂犬病ウイルスのヒトへの感染は, 常在国では犬によるものが99%までを占める。狂犬病の予防には, 犬に対するワクチン接種と, ヒトに対する曝露前または曝露後のワクチン接種がある。近年の細胞培養から作られた狂犬病ワクチンは安定しており禁忌はないとされている。

WHOは曝露前予防(pre-exposure prophylaxis: PrEP)ならびに曝露後予防(post-exposure prophylaxis: PEP)を推奨し, いずれにおいても皮内注または筋注での投与が可能である。筋注投与に比較し, 皮内注スケジュールは接種回数・接種期間・費用の面で利点があるとしている。今回の更新では, PEP, PrEPともに, スケジュールの期間が短縮, または接種回数が減少した。また, 曝露後の狂犬病免疫グロブリン(rabies immuno-globulins: RIG)の適応についても言及している(2010年のWHOポジションペーパーRabies vaccines: WHO position paperはWER 85(32): 309-320, 2010; http://www.who.int/wer/2010/wer8532.pdfを参照)。

①曝露後予防(post-exposure prophylaxis: PEP)

PEPには, 創部洗浄, 狂犬病ワクチンの一連の接種, 必要な場合のRIG投与が含まれる。WHOは狂犬病ウイルスへの曝露リスクを次のように分類している。I:触れる, 餌付けをする, 健康な皮膚を舐められる, II:保護されていない皮膚の甘噛み(原文nibble), 出血のない小さな擦り傷, III:単一もしくは複数の皮下におよぶ咬傷・擦過傷, 舐められることによる粘膜や損傷皮膚の唾液による汚染, コウモリとの直接的な接触(深刻な曝露)。カテゴリーIには創部洗浄, カテゴリーIIには創部洗浄と迅速な狂犬病ワクチン接種, カテゴリーIIIには創部洗浄, 迅速な狂犬病ワクチン接種に加え, 必要に応じてRIG投与を推奨している。

狂犬病ワクチン接種の推奨スケジュールは, 過去に未接種の場合, 2カ所の皮内注3回(0, 3, 7日)または1カ所の筋注4回(0, 3, 7, 14~28日)または2カ所の筋注1回(0日)と1カ所の筋注2回(7, 21日)である。PrEPのワクチン接種完了後または2回以上のPEPのワクチン接種後の場合, 1カ所の皮内注2回(0, 3日) または4カ所の皮内注1回(0日)または1カ所の筋注2回(0, 3日)が推奨される。

RIG投与はカテゴリーIIIの曝露で, 過去に未接種の場合に推奨される。RIGが入手不可能な場合であっても創部洗浄, 迅速な狂犬病ワクチン接種とPEPの完遂は狂犬病予防に高い効果があるため, 狂犬病ワクチン接種を保留してはならない。RIGは創部内および創部周囲に浸潤させる。かつてWHOは, 最大投与量(ウマ由来RIGは40 IU/kg, ヒト由来RIGは20 IU/kg)のRIGの残量を創部から離れた部位に筋注することを推奨していたが, 新しい指針ではこれを推奨しない。過去3カ月以内に完全なPEPスケジュールを終了している場合には, 狂犬病ワクチン接種, RIG投与ともに推奨されない。

②曝露前予防(pre-exposure prophylaxis: PrEP)

WHOは狂犬病ウイルスへの曝露がハイリスクと考えられる場合にPrEPを推奨している。これには, 高度流行地域に居てかつ適切なPEPが受けられない者, 曝露のリスクがある職務につく者や渡航者が含まれる。人口全体へのPrEP接種の実施については, その地域の背景や狂犬病の疫学, 動物の狂犬病管理の実現性に関するアセスメントに基づいて決定すべきである。PrEPの推奨スケジュールは, 2カ所の皮内注2回(0, 7日)または1カ所の筋注2回(0, 7日)である。

 

[WHO, WER 93(16): 201-220, 2018]
(抄訳担当:感染研感染症疫学センター・上月愛瑠 島田智恵 有馬雄三 砂川富正)

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