国立感染症研究所

A群ロタウイルスによる成人の集団感染事例―茨城県
(Vol. 33 p. 13-14: 2012年1月号)

茨城県土浦保健所管内の障害者支援施設(成人)で、11月下旬にA群ロタウイルスによる11名の集団感染事例が発生したので、その概要について報告する。

当該施設(職員数60名)は障害者自立支援法に基づく施設で、施設入所、短期入所(ショートステイ)および生活介護支援事業を行っており、入所者53名は個室または2人部屋で生活している。

2011年11月25日、当該施設の施設長から嘔吐、下痢を起こしている者が複数いるとの連絡が保健所にあった。保健所が調査したところ、11月16~25日までに、発熱(37.5℃以上)、下痢、嘔吐の症状を呈している者が10名(すべて入所者)いた。初発患者は、自宅外泊して11月16日に帰所した女性入所者である。帰所時に発熱(37.5℃以上)あり、翌日嘔吐・下痢症状を呈した。11月21~24日にかけて入所者9名が次々と発症した。発症者は全員医療機関を受診し、感染性胃腸炎と診断され、そのうち1名が点滴を受けた。その後、嘔吐物の処理にあたった職員1名が発症し、医療機関でロタウイルス胃腸炎と診断された。発症者の平均年齢は42歳(23~69歳)、症状の持続期間は平均3日間(1~5日間)である()。有症者への隔離等の対応、消毒の実施、手洗いの励行、入所者および職員の健康観察等、保健所による適切な指導の結果、11月25日以降の発症者は1名にとどまり、12月8日に終息宣言が出された。

原因究明のため、11月27日に入所者3名の糞便が当研究所に搬入された。まず、リアルタイムPCR法によりノロウイルスの検出を試みたが、検出されなかった。そのため、A群ロタウイルス、C群ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルスおよびアストロウイルスの検査を行った。A群ロタウイルスとアデノウイルスについてはイムノクロマト法、C群ロタウイルスはRT-PCR法、サポウイルスおよびアストロウイルスについてはリアルタイムPCR法によりウイルス抗原・遺伝子の検出を試みた。その結果、A群ロタウイルスの抗原のみが3名全員から検出された。これらの糞便からRNAを抽出し、「ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)」に掲載の方法1) により、G遺伝子型別(G1・G2・G3・G4・G8・G9型)を行った結果、G2型と判定された。

茨城県における2010(平成22)年度のA群ロタウイルスによる集団感染事例は4事例で、他県と同様に4~6月にかけて、3つの保育園と1つの小学校で発生したが、今年は感染性胃腸炎の流行に入る前の11月に成人の施設で発生がみられた。成人の集団感染事例は、篠原ら2) が報告しているが、その数は少ない。しかし、病原体検出情報の2005年1月~2011年11月までの集団発生集計3) によると、16.5%を占めている。また、田村ら4) は例年11月から検出していることを報告しており、11月頃に発生したノロウイルス非検出の集団発生事例においては、検出を試みるべきウイルスの1つであると考える。

発症者11名のうち1名は点滴を受けたが、症状の平均持続期間は3日間であった。成人のA群ロタウイルス感染症は、乳幼児に比べて軽症であると考えられた。G、P遺伝子型や系統解析の疫学情報はわが国では少ないため、過去に遡り調査する必要があると考える。

 参考文献
1)国立感染症研究所・衛生微生物技術協議会レファレンス委員会編
  ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版) 平成15年7月
2)IASR 14: 122, 1993
3)NESID(感染症サーベイランスシステム) 
4)IASR 32: 73-74, 2011

茨城県衛生研究所
増子京子 渡邉美樹 土井育子 笠井 潔 原  孝 杉山昌秀
茨城県土浦保健所保健指導課
黒江悦子 深澤伸子 藤枝 隆

 



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