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宮城県の過去10年間におけるA群ロタウイルスの動向

(IASR Vol. 35 p. 298- 300: 2014年12月号)

ロタウイルスA(RVA)による胃腸炎の重症化を予防する目的でワクチンが開発され、日本においても、2011年11月から接種が開始されている。ワクチン導入後に起こる流行株の遺伝子型の変化を監視することは、ワクチンの影響を評価するうえで必要不可欠である。本研究は、その基礎となるベースライン情報を得るため、過去10年間にわたり、仙台市を除く宮城県内で検出されたRVAの遺伝子型の動向を調査し、興味ある非通常株を検出したので報告する。

2003/04シーズン~2012/13シーズンの10年間にわたり、宮城県結核・感染症発生動向調査事業で採取された感染性胃腸炎患者の糞便検体1,179件のうち、RVAのVP4とVP7の一部の領域を標的としたRT-PCR法またはイムノクロマト法でRVA陽性であった96検体のうち65検体を対象に遺伝子型別を行った。糞便検体は滅菌蒸留水で10%乳剤とし、シードスワブは滅菌蒸留水500μlに懸濁後10,000rpm 10分間遠心した後、QIAampViral RNA Mini Kit(QIAGEN)によりRNAを抽出した。G型別はVP7-F1)とVP7-R1)で、 P型別はCon-32)とCon-22)をプライマーとしてRT-PCRを行い、ダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定した。型別は、最終的にRotaC(http://rotac.regatools.be/)により決定し、MEGA5による分子系統解析を行った。

宮城県で過去10シーズンに検出されたRVAの主要な遺伝子型はG1P[8](52.3%)、G3P[8] (35.4%)、G9P[8](4.6%)、G2P[4](3.1%)であった(図1)。各流行期における遺伝子型は、2004/05、2005/06、2011/12および2012/13シーズンではG1P[8]が優勢であったが、 2003/04、2006/07、2008/09シーズンではG3P[8]が優勢であった(図2)。宮城県においてもシーズンにより流行株の遺伝子型が変化している傾向が認められた。

また、非通常株であるG6P[9]およびG12P [9]がそれぞれ1検体検出された。G6P[9] (M72S11)は2011年11月に上気道炎と下痢、嘔吐などの症状を呈した2歳の幼児から検出され、G12P[9](M392S09)は2010年3月に下痢を主徴とする1歳3か月の幼児から検出された。G6はウシロタウイルスの主要な遺伝子型であるほか、ヒツジおよびヤギからも検出され、まれにブタやウサギからの報告例もある。ヒトからの報告例は少ないが、古くはIizukaら3)によりイタリアで分離されたG6株であるPA151株がウシロタウイルスとAU-1型のヒト/ネコロタウイルスとの遺伝子分節再集合体であることがRNA-RNA hybridization法を使って証明されている。最近Yamamotoら4)は、2010年2月にわが国で初めて検出されたG6P[9]をもつヒトロタウイルスKF17株の全ゲノム解析を行い、KF17がウシロタウイルスとAU-1型のヒト/ネコロタウイルスとの遺伝子分節再集合体として形成されたと結論している。M72S11は、このKF17とVP7遺伝子およびVP4遺伝子に関し、それぞれ99.7%および99.8%という非常に高い塩基一致率を持ち、分子系統樹の所見と合わせると、M72S11とKF17とは、同一のクローンに属する株であろうと推測される(図3&図4)。

また、G12の初検出は、フィリピンであるが(Lineage I)5)、その後G12P[9]が、アジア、南米などから報告された(Lineage II)6,7)。現在、世界的に優勢なG12株はLineage III に属し、これはG12P[6]やG12P[8]の組合せになることがほとんどである8)。本研究で検出したM392S09のVP7は系統解析の結果、Lineage II に属するG12株であり、近年では2006~2009年にかけてパラグアイで小規模な流行がみられたが、その他にはあまり報告例のないG12P[9]である。M392S09は、同じくG12P[9]である千葉県で2001年に検出されたCP727株6) と、VP7では99.1%、VP4では99.3%の塩基一致率であり、Lineage II に属するG12株が消滅していない可能性がうかがわれた(図5)。

ロタウイルスワクチンの接種率の向上にともない、ワクチン防御から逃れた株の出現や、優勢遺伝子型の変化、さらに、リアソータントなどによる変異株の出現なども予測され、継続した監視が必要と考えられる。

なお、今回の調査で得られた株(M72S11、M392S09)のVP7領域とVP4領域の一部の塩基配列をGenBankに登録し、以下のアクセッション番号を取得した。AB985502(M72S11、VP7)、AB985503(M72S11、VP4)、AB985504(M392S09、VP7)、AB985505(M392S09、VP4)

謝辞:本研究について貴重なご意見を頂きました長崎大学医学部・中込 治教授に深謝する。

 
参考文献
  1. Iturriza-Gómara M, et al., J Clin Virol 31: 259-265, 2004
  2. Gentsch JR, et al., J Clin Microbiol 30: 1365-1373, 1992
  3. Iizuka、 M, et al., Arch Virol 135: 427-432, 1994
  4. Yamamoto D, et al., Virus Genes 43: 215-223, 2011
  5. Kobayashi N, et al., Arch Virol 109: 11-23, 1989
  6. Shinozaki K, et al., J Med Virol 73: 612-616, 2014
  7. Castello AA, et al., J Med Virol 81: 371-381, 2009
  8. Uchida R, et al., J Clin Microbiol 44: 3499-3505, 2006
 
宮城県保健環境センター
  鈴木優子 木村俊介 阿部美和 植木 洋 渡邉 節
宮城県食肉衛生検査所 佐藤俊郎
 

 

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