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大阪市内において検出されたロタウイルスG11について

(IASR Vol. 44 p131-132 2023年8月号)
 

ロタウイルスAは, 乳幼児に重症の急性胃腸炎症状を引き起こすウイルスで, 11本の遺伝子分節からなる2本鎖RNAゲノムを有する。11本の遺伝子分節は6種類の構造タンパク質(VP)と6種類の非構造タンパク質(NSP)をコードしている。その遺伝子型の組み合わせはVP7-VP4-VP6-VP1-VP2-VP3-NSP1-NSP2-NSP3-NSP4-NSP5の順にGx-P[x]-Ix-Rx-Cx-Mx-Ax-Nx-Tx-Ex-Hx(xは数字)と表記される。外殻タンパク質であるVP7(G型)およびVP4(P型)は中和抗原を有し, 遺伝子型別の基礎として広く用いられてきた。国内においては病原体検出情報システムを通じてVP7の遺伝子型の報告がなされており, G1, G2, G3, G8およびG9が流行の主流である1)。ただし, わが国では2020年10月からロタウイルスワクチンが定期接種化され, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)流行の影響も受けて, 近年のロタウイルスAの検出報告数は非常に少ない傾向が続いている。

今回, 大阪市内において感染性胃腸炎と診断された患者の便検体から, 非常に珍しいロタウイルスG11が検出されたので報告する。

患者は17歳男性で, 既往歴は2013年6月にB前駆細胞型急性リンパ性白血病を発症, 化学療法により寛解したが再発し, 2016年5月に臍帯血幹細胞移植を実施した。以降, 寛解状態にある。現病歴は2023年3月に下痢, 嘔吐, 発熱(39℃)を呈し, 2日後, 大阪市立総合医療センターを受診し, 感染性胃腸炎と診断され3日間入院した。発症から3日後に便が採取され, 大阪健康安全基盤研究所(当所)にてノロウイルス, ロタウイルスA, サポウイルス, アストロウイルスおよびアデノウイルスの遺伝子検査を実施した。ノロウイルス, サポウイルスおよびアストロウイルスは陰性であった。アデノウイルスは, 病院にて実施した迅速検査では陽性であったが, 当所でのPCR検査では陰性であった。ロタウイルスAについて, Beg9およびEnd9プライマーを用いてVP7遺伝子分節のRT-PCRを行ったところ陽性となった。その増幅産物のシーケンス解析結果をRotavirus A Genotyping Tool Version 0.1(https://www.rivm.nl/mpf/typingtool/rotavirusa/)に供したところ, 遺伝子型はG11であった。さらに得られた塩基配列(1,007bp)についてBLAST検索を行ったところ, 塩基配列の一致率が最も高い株は韓国で検出されたG11P[4]株(VP7アクセッション番号: EF121951, 99.7%), 次いで韓国で検出されたG11P[25]株(VP7アクセッション番号: KC140587, 99.6%)であった。続いて, 「国立感染症研究所 病原体検出マニュアル ロタウイルス(第2版)」に準じてVP7以外の10遺伝子分節についてもRT-PCRを行ったところ, VP4以外の9遺伝子分節については増幅産物が得られたが, VP4の増幅は認められなかった。そのため, 上述のG11P[25]株(VP4アクセッション番号: KC140588)を参照してプライマー(VP4P25_929F: AGACGGAGAAGAAGTGACTG, VP4P25_1473R: GACTGAATTGGCTATTGGAG)を作製しRT-PCRを行ったところ増幅が確認され, 遺伝子解析の結果, P[25]と確定した。各遺伝子分節の部分配列から遺伝子型を判定したところ, 最終的に本検出株はG11-P[25]-I12-R2-C3-M3-A3-N2-T3-E1-H1と型別された。

当所での感染性胃腸炎の検査において, ロタウイルスAは2021/22シーズンの間検出されておらず, 2022/23シーズンは3月と4月に本症例を除いてそれぞれ1検体ずつ検出されている(2023年6月15日現在)。これら2つの遺伝子型は, 国内における流行株の1つであるG3であった。

ヒトにおけるG11は, 2018年に韓国で集団感染性胃腸炎の報告があるほか2), ネパールやインドでも検出されているが3,4), 現在まで国内における検出報告はない。ブタの間で伝播していると考えられているが, まだ情報が少なく, その詳細は不明である。G11に対するワクチンの有効性についても分かっていない。

ロタウイルスは, 複数のウイルス株が重複感染した場合, 分節型遺伝子間で遺伝子再集合(リアソートメント)を起こし, リアソータントを形成することが知られている。本症例を上述の韓国, ネパールおよびインドにおける症例の遺伝子型(G11-P[25]-I12-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-H1)と比較すると2-4), VP1-VP2-VP3-NSP1-NSP2-NSP3で遺伝子型が異なっていたことから, 本症例はG11P[25]新規リアソータントであると推察された。以上の結果から, VP7およびVP4を含むすべての遺伝子分節の型別の重要性が改めて確認された。今回検出された株については, 今後, サンガー法や次世代シーケンス(NGS)によるフルゲノム解析も視野に入れながら, さらに詳細に解析する予定である。

 

参考文献
  1. IASR, シーズン別ウイルス検出状況, 由来ヒト(胃腸炎ウイルス, 2012/13~2022/23)
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data96j.pdf
  2. Chae SJ, et al., Infect Chemother 52: 616, 2020
  3. Matthijnssens J, et al., Emerg Infect Dis 16: 625-630, 2010
  4. Mullick S, et al., Infection, Infect Genet Evol 14: 15-21, 2013
大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課   
 牛飼裕美 白井達哉 山崎笑子 左近直美 阿部仁一郎      
大阪市立総合医療センター
 天羽清子 奥野英雄  
大阪市保健所      
 伊藤文美 北村 聡 永谷史織 齊藤武志 伊集院育子

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