2016年4月に神戸市で検出されたA群ロタウイルスVP7遺伝子の解析
(IASR Vol. 37 p. 115-116: 2016年6月号)
2016年第13週, 市内医療機関から神戸市保健所に急性脳症による入院患者の届出1)があり, それに引き続いて神戸市環境保健研究所に同患者の検体(咽頭ぬぐい液および便)が搬入された。患者は入院前に激しい下痢を呈していたとの情報からロタウイルスの感染を疑い, 便検体からのウイルス遺伝子検出を試みた。
国立感染症研究所(感染研)の病原体検出マニュアルホームページ2)に記載されている 「感染性胃腸炎(ロタウイルスの検出法)」 の方法に準じて, VP7遺伝子のマルチプレックスPCR法を実施し, 約750bpの2nd PCR産物を確認した (図1, レーン4)。増幅産物の大きさからG1であると想定し, 2nd PCR産物についてダイレクトシークエンス法による解析を行ったところ, 共通リバースプライマー(RVG9)では波形が得られたが, G1特異的フォワードプライマーでは波形が得られなかった(図1, レーン2)。RVG9で得られた配列のBLAST解析ではG3と相同性が高かったため, RVG9とG3特異的フォワードプライマー(aET3)の組み合わせで再度2nd PCRを実施した結果, 約750bpの増幅産物を確認した(図1, レーン3)。今回実施したマルチプレックス法では1st PCRの増幅産物が少なく, VP7遺伝子の全長を解読することはできなかったが, 1st PCRおよび2nd PCRの増幅産物から最終的に828bpの塩基配列を決定した。その配列中には, 本来のaET3結合箇所(図2A)以外にも結合可能と考えられる箇所(図2A')が存在しており, それぞれの配列とaET3との相同性は図2のとおりであった。aET3の3'末端側との結合がA'においてより強固であったことが, 本来得られるべきサイズ(374bp)ではなく約750bpの増幅産物が生じた一因と考えられた。感染研マニュアルにも記載されているとおり, VP7遺伝子型の決定においてはシークエンス解析がより重要であることが, この結果からも示された。
BLAST解析の結果, このVP7遺伝子の部分配列は, 2013年にそれぞれ仙台3), オーストラリア4), タイ5)で発生した患者らから検出されたG3ウイルスと99.9%一致した。各報告によると, それらのウイルスは, ウマロタウイルスとヒトロタウイルスの遺伝子再集合により生じたウマロタウイルス由来のVP7遺伝子分節を持つ新しいタイプのG3ウイルスと考えられている。部分配列のみの解析結果ではあるが, 今回検出されたG3ウイルスも同様のリアソータントウイルスである可能性があるため, 現在, VP7遺伝子の全塩基配列, VP4およびその他の分節についても詳細を解析中である。
参考文献
- 神戸市感染症発生動向調査週報(2016年第13週) http://www.city.kobe.lg.jp/life/health/infection/sh16_13.pdf
- 国立感染症研究所病原体検出マニュアル 「感染性胃腸炎」
- Malasao R, et al., Virus Genes 50: 129-133, 2015
- Cowley D, et al., J Gen Virol 97: 403-410, 2016
- Komoto S, et al., PLoS One 11: e0148416, 2016