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G2型のA群ロタウイルスによる感染性胃腸炎集団事例, 2016年―大阪市

(IASR Vol. 37 p. 139-140: 2016年7月号)

A群ロタウイルス(RVA)は乳幼児の急性胃腸炎の主要な原因ウイルスであり, 5歳までにほぼすべての小児が罹患すると考えられている。RVAの遺伝子型は, 中和抗原を包含する外殻蛋白質VP7(G型)およびVP4(P型)の組み合わせで示すことが多い。一部の地方衛生研究所ではG型別を実施しており, それによると, 日本で検出されるG型はG1, G2, G3, G9が大部分を占めている1)。各遺伝子型の割合はシーズンによって変動するものの, G2型は比較的検出頻度が低く, 優占型となることは稀である。RVA胃腸炎の集団事例は保育施設での発生が圧倒的に多いが, 2016年春季の大阪市では全年齢層でG2型による?RVA胃腸炎集団事例が発生したため, その概要を報告する。

2016年の5月20日までに大阪市で発生したヒト‐ヒト感染が疑われる感染性胃腸炎集団事例のうち, 当研究所で実施したELISA(ロタクロン, フジレビオ社)でRVA陽性となったRVA集団事例は保育施設で3事例, 小学校で1事例, 成人の障がい者支援施設で1事例, 高齢者施設で2事例の計7事例であった。成人および高齢者施設の各事例における主症状は下痢(69~94%, 水様性下痢が多数), 嘔吐(44~66%)であり, 1施設では3名が入院に至った()。発生時期は3月~5月に集中していた()。ELISA陽性の全検体について, RVAのVP7, VP4ならびにVP6(I型)遺伝子をRT-PCR法にて増幅し2), ダイレクトシークエンス後, RotaC3)を用いて遺伝子型を決定したところ, すべてG2-P[4]-I2で一般的なG2株であった。また, 検出されたすべてのG2株の塩基配列は, いずれも高い一致率(>99%)を示したため, 互いに近縁であると考えられた。

日本におけるG2型の検出例は少ないが, 15歳以上の割合が多く, 他の型とは異なる分布を示すことがわかっている1)。過去のIASRでは, 2012年にG2型による成人の集団事例が茨城県より報告されている4)。また, 2006年の新潟県では, 成人グループに発生した食中毒事例よりG2型が検出されたが, その時点で県内の小児RVA感染患者からはG2型は検出されなかったと報告されている5)。さらに遡って2000年春季には, G2型による集団事例(小学校, 障がい者支援施設, 高齢者施設, 食中毒)が発生し, 4つの自治体より相次いで報告された6-9)。2016年の大阪市では, 集団事例だけでなく小児散発例においてもG2型の検出割合が61%(11/18)となり, 最も高かった。したがって, 大阪市においてG2型による集団事例が全年齢層で続発したのは, G2型が比較的高い年齢層にも胃腸炎症状を惹起し得るという性質に加え, RVA流行のベースとなる乳幼児でG2型が優占することにより, 他の年齢層のG2型への曝露機会が例年と比べて増加したことが要因の一つとして挙げられる。2016年のようにG2型が流行している状況では, 年齢を問わず, これまで以上にRVA胃腸炎の発生動向を注視する必要があると考えられる。

本事例に関して疫学調査等の情報収集にご協力いただいた関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. IASR 35: 63-64, 2014
  2. Fujii Y, et al., Microbiol Immunol 56: 630-638, 2012
  3. RotaC2.0 automated genotyping tool for Group A rotaviruses(http://rotac.regatools.be/
  4. 増子京子, 他, IASR 33: 13-14, 2012
  5. 田村 務, 他, IASR 27: 156, 2006
  6. 浅川洋美, 他, IASR 21: 144, 2000
  7. 大石英明, 他, IASR 21: 144, 2000
  8. 篠崎邦子, 他, IASR 21: 145, 2000
  9. 飯塚節子, 他, IASR 21: 145-146, 2000

大阪市立環境科学研究所
 山元誠司* 上林大起* 改田 厚 久保英幸 入谷展弘 小笠原 準 (*は大阪府立公衆衛生研究所を併任)
大阪市保健所
 伯井紀隆 森 宏美 藤森良子 澤野芳範 廣川秀徹 松本健二 吉村高尚

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