国立感染症研究所

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障がい児・者入所施設におけるC群ロタウイルスによる集団発生事例―千葉県

(IASR Vol. 38 p247-248: 2017年12月号)

2017年7月に, C群ロタウイルスによる胃腸炎の集団事例が発生したので報告する。

概 要

2017年7月12日, 県北東部にある障がい児・者入所施設において嘔吐・下痢症状を呈した者が6名いると保健所に報告があった。7月11日~12日の間に入所者37名(男30名, 女7名)中8名が発症しており, 職員(36名)に発症者はいなかった。発症者の性別は全員男, 年齢は7~29歳であった。症状は, 下痢(0~15回/1日), 嘔吐(0~5回/1日), 発熱(平均38.5℃)が認められた。発症者は知的障がいを持つため, 頭痛や悪寒など自ら申告する必要のある症状の有無は不明であった。当該施設は入所支援施設であり, 障がいがある児・者に対して昼夜を問わず日常生活を一体的に支援している。また, 食事は当該施設直営の給食によって提供されており, 職員も同じ食事を喫食している。

発症者8名中7名, 調理従事者5名, 計12検体の便について管轄保健所で細菌とノロウイルスの検査を実施したところ, 発症に関与すると考えられる病原体の検出がなかったことから, 当所へ搬入された。サポウイルス, アストロウイルス, A群ロタウイルス, アデノウイルス, エンテロウイルス属, C群ロタウイルスの検出をリアルタイムPCRによって実施したところ, 発症者便7検体からC群ロタウイルスが検出された。同じ食事を喫食しているにもかかわらず職員からの発症はなかったこと, 調理従事者から検出されなかったこと等から, 食中毒の可能性は低いと判断された。さらに, 初発発症者の同室者, 近接室者の発症が多かったことから, C群ロタウイルスのヒトからヒトへの感染が施設内であったことが推測された。

結果と考察

検出されたC群ロタウイルスはPCR1)によってVP7領域を増幅し, ダイレクトシークエンスを行った。7検体中6検体から塩基配列が得られ, それらは899bpで100%一致した。2001年に感染症発生動向調査で検出されたC群ロタウイルスの塩基配列との相同性は, 899bpで95.3%であった。また, 系統樹解析(899bp)を最尤法によって行った()。本事例と2001年のC群ロタウイルスとは系統的に異なっていたことから, 長期間単一のウイルスが県内に存在していたのではなく, 多様なC群ロタウイルスが発症に関与している可能性が示唆された。

国内のC群ロタウイルスによる集団事例は小学校での発生報告が多く, 県内でも1993年以降小学校での集団事例を数例経験しているが, 成人を含む集団での発生事例は初めてのことであった。本事例に関連して, 発生施設の入所児が通う学校では, 入所児以外に発症者がいなかったことが保健所の調査で判明している。また, 同時期の感染症発生動向調査からはC群ロタウイルスの検出は認められていなかったことから, ウイルスの侵入経路は現時点で不明である。国内におけるC群ロタウイルスによる集団事例は4~6月に発生が多く認められ, 本事例のように7月に発生した例は稀である。

本事例は, 成人を含む集団における7月に発生した感染性胃腸炎の集団事例だったことで, ロタウイルスによる胃腸炎は否定的であった。しかし, 明確な下痢, 嘔吐, 発熱症状があったことから, 胃腸炎の原因となるウイルスの検出を網羅的に試みた。

A群ロタウイルスのワクチン導入以降, A群ロタウイルスによる入院症例の減少の報告2,3)がある中, C群ロタウイルスの顕在化も視野に入れ, これまで以上に検出動向に注目していく必要があると考える。検出は稀ではあるが, C群ロタウイルスの検出を試みることは, C群ロタウイルスの動態を明らかにし, ウイルス性胃腸炎の疫学解析に重要であると考える。

本報告にあたり, 調査概要の提供等ご協力いただいた千葉県海匝健康福祉センター八日市場地域保健センターのみなさまに深謝いたします。

 

参考文献
  1. 葛谷光隆ら, 感染症学雑誌 77(2): 53-59, 2003
  2. 坂田 宏ら, 小児感染免疫 27(1): 3-8, 2015
  3. 岩間真弓ら, 小児感染免疫 29(3): 234-240, 2017

 

千葉県衛生研究所ウイルス研究室
 堀田千恵美 秋田真美子 西嶋陽奈 追立のり子 平良雅克 小川知子

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