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新生児集中治療室(NICU)におけるロタウイルス集団発生

(IASR Vol. 40 p109:2019年6月号)

2018年3月にNICUにおけるロタウイルスAの集団感染(3名)が発生し, 約2週間の間隔をあけてGCU(回復室) へのロタウイルスの伝播が確認された。これらの感染確認事例からNSP4リアソータントG9P[8]が検出された。

初発は小児A。発熱(最高体温40.2℃), 酸性臭の便を認めた。翌日, 検査にてロタウイルス陽性。院内検査にはディップスティック栄研ロタを使用した。有症期間は4日間であった。初発例の病日3日後, 小児Bに発熱(最高体温39.0℃)を認め, 翌日ロタウイルス検査を実施し, 陽性となった。発熱は3日間続いたが, 便性は正常であった。小児Bの検査を実施する際, 両となりの新生児Cと小児Dの検査も行った結果, 小児Cのロタウイルス陽性を確認した。小児Cに症状は認めなかった。小児Dは検査日より4日間泥状便であったため, その後2回検査を実施したが, いずれも陰性であった。3名のロタウイルス感染が確認されたため, ロタウイルス集団発生と判断し, 小児A~Dの隔離管理, 接触予防策を行った。入院制限は陽性者が3名となった日以降, 3日間実施した。 

NICUの隔離管理解除1週間後(初発日より15日後), GCUにおいて新たな感染を認めた。発症は小児E1で発熱(最高体温38.5℃), 白色便であった。有症期間は1日。小児E1の双胎小児E2は症状なく, ロタウイルスも陰性であったが, 小児E1, E2を隔離管理とし, 3日間の入院制限とした。 

ロタウイルス陽性小児において1名は無症候, 3名はロタウイルス胃腸炎に特徴的な激しい下痢, 嘔吐等は認められず, 発熱が特徴的であった。なお, 入院小児へのロタウイルスワクチンは従来より接種していない。 

これら一連の検査に用いた6検体の便について, 遺伝子検査およびロタウイルスの解析を行った。ロタウイルスsegment 9(VP7)を増幅するプライマーBeg9/End9を用いた遺伝子検査の結果は迅速検査の結果と一致した。小児Aの検体について11分節の塩基配列をNGSにて決定し, 遺伝子型別を実施したところ, G9- P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E2-H1であった。これまでに報告されているG9P[8]株はその他の遺伝子型が1に分類されるが, NSP4のみが2に分類されたNSP4の新規リアソータントであると考えられた。そこで, 残る陽性3検体についてはVP7, VP4, VP6, NSP4の各分節の増幅と遺伝子型別を実施した。3検体はいずれもG9-P[8]-I1-E2であった(RotaC2.0)。初発児から得られたロタウイルスのVP7とNSP4に対する3検体の塩基配列はそれぞれ99.9%以上の一致率であった。したがって, 今回のロタウイルス陽性4例は同一株による院内感染事例であると推測された。 

NICUでは家族以外の面会はなく, 自分の子供以外へのコンタクトはない。家族への体調の聞き取りを行ったところ, 1家族において面会者以外で胃腸炎症状があったとの報告があったが, その入院児にロタウイルスは検出されなかった。GCUで新たな陽性者が発生し, 同一のリアソータント株が検出されたことより, 医療スタッフあるいは環境を介した伝播があったと推定され, 感染制御のさらなる徹底が必要と思われた。 

ロタウイルスが検出された小児の症状は軽微であり, 胃腸炎症状が認められず発熱のみであったケースや無症候も認められた。新生児におけるロタウイルス臨床像が典型的ではなく比較的軽症であるが1), 院内における伝播を防ぐために, 症状の有無にかかわらずスクリーニング検査を行うこと, 陰性化確認も必要と考えられた。また, ロタウイルスは分節型のRNAをゲノムとして有することからリアソータントを形成しやすい。本事例ではNSP4のリアソータントであることが早期に判明したことで, その後の検出例に4分節の遺伝子型, 塩基配列の一致を確認することで, 同一株による伝播であることを確認することができた。なお, 大阪では2019年に入りロタウイルスAのG9型の検出が続いているため, 今後NSP4を含めた型別を実施し, リアソータントの出現に注視したい。

 

参考文献
  1. Kang HN, et al., Pediatr Int 60(4): 366-371, 2018

 

大阪健康安全基盤研究所ウイルス課
 左近直美 本村和嗣
石井記念愛染園附属愛染橋病院小児科 
 井石倫弘 塩見正司
大阪大学微生物病研究所感染症メタゲノム研究分野
 元岡大祐 中村昇太

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan