薬剤耐性菌感染症

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<速報>腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌の検出に適したスクリーニング薬剤の検討

(掲載日 2014/5/27) (IASR Vol. 35 p. 156-157: 2014年6月号)

腸内細菌科カルバペネム耐性菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE)のうち、耐性がカルバペネマーゼの産生によるもの〔腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌(Carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)〕は、特に注意が必要である。CPEは必ずしもカルバペネムに耐性を示さないものの、院内感染対策上はできるだけ確実に検出することが望ましい。CPEを検出する方法として、PCR法によるカルバペネマーゼ遺伝子検出や阻害剤ディスクを利用した方法などが提唱されているが、医療機関において、これらの追加検査を腸内細菌科の菌株すべてに実施するのは現実的ではない。そこで、通常医療機関で実施される薬剤感受性試験によりCPEを検出するためには、どの抗菌薬の感受性結果を指標にするのが適切かについて検討した。

検討には、2010年「我が国における新たな多剤耐性腸内細菌に関する実態調査」で収集されたカルバペネム、フルオロキノロンおよびアミカシンに耐性の腸内細菌科の菌株を用いた1)。この調査ではカルバペネムに感性のCPEも念頭において、セフタジジムに高度耐性の菌株も収集対象に含めた。収集された153株のうち、カルバペネマーゼ遺伝子陽性の78株(IMP型72株、NDM型2株、KPC型2株、OXA-48型1株、SMB型1株)をCPEとした。各β-ラクタム系抗菌薬を指標薬剤とした場合のCPE検出の感度と特異度をに示す。各抗菌薬の「耐性(R)」、「中等度耐性(I)」、「感性(S)」の判定基準はCLSI2012によった2)

カルバペネム系抗菌薬であるメロペネムを指標薬剤にして、「IまたはR」を陽性とした場合、CPE検出の感度は92.4%、特異度は89.3%であった。一方、同じカルバペネム系のイミペネムを指標薬剤とした場合は感度が52.6%で、検討を行ったすべてのβ-ラクタム薬の中で最も低かった。今回、同じカルバペネム系薬剤でもイミペネムの感度がメロペネムに比べて低かった要因の一つとして、メロペネムには耐性を示すが、イミペネムに感性となるIMP-6メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌が含まれていたことが挙げられる。腸内細菌科IMP-6メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌はわが国では比較的高頻度に分離される3)。今回検討を行った菌株では、72株のIMP型のうちシークエンスによる型別を実施した53株中25株はIMP-6だった。

セファロスポリン系のセフタジジムを指標薬剤として、「R」を基準にした場合、感度は94.9%と高かったが、特異度が17.3%と非常に低くなった。セフピロムの場合は感度、特異度ともに低かった。セファロスポリン系のセフタジジム、セフピロムについては、特異度が低く、指標薬剤としては適さないと考えられた。これは、広域スペクトラムセファロスポリン系薬剤に耐性となる基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌が陽性例として入ってしまうためと考えられる。ESBL産生菌であってもセファマイシン系のセフミノクスは耐性とならないため、今回の解析でも感度が最も高く、特異度もセファロスポリン系薬剤よりは高かった。しかしながら、Enterobacter属、Serratia marcescens等、染色体性のAmpCを産生する菌種はセファマイシン系薬剤に耐性を示して陽性例に入ってしまうため、メロペネムよりも特異度が低くなったと考えられる。

今回の検討では、CPE検出の指標薬剤としてメロペネムが感度および特異度の点から最適であることが示された。より高感度にCPEを捕捉するためには、セフミノクスが適しているが、特異度が下がることに注意が必要であることが示された。

なお、今回検討に用いた株は2010年に多剤耐性という条件で収集された株であり、また、すべてのカルバペネマーゼ遺伝子を網羅的に検出はしていない。今後、国内では様々な耐性機序のカルバペネム耐性菌が出現してくると予想される。CPE検出の指標薬剤は、国内にどのような耐性機序をもつ菌がどの程度存在するのかについて情報収集を継続し、その時の状況に即したものを用いる必要がある。


参考文献
  1. 厚生労働省科学研究費補助金「新型薬剤耐性菌等に関する研究」平成22年度研究報告書 p22-27 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/cyousa_kekka_110121.html
  2. CLSI. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; 22nd Informational Supplement. CLSI document M100-S22, Wayne, PA: Clinical and Laboratory Standards Institute; 2012.
  3. Yano H et al. High frequency of IMP-6 among clinical isolates of metallo-β-lactamase-producing Escherichia coli in Japan. Antimicrob Agents Chemother. 2012:56(8):4554-4555.

国立感染症研究所細菌第二部   
  鈴木里和 松井真理 鈴木仁人 柴山恵吾

 

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海外より来日した患者から検出されたNDM-1 メタロ- β- ラクタマーゼとOXA-181 カルバペネマーゼ等を同時に産生する広範囲抗菌薬耐性肺炎桿菌

(IASR Vol. 34 p. 237-238: 2013年8月号)

 

NDM型メタロ- β-ラクタマーゼ(MBL)を産生する多剤耐性菌は、2010年以降インド/パキスタン地域から世界各地に拡散している1,2)。MBLは、セフェム系やカルバペネム系を含む広範囲のβ-ラクタム薬を分解する。NDM型MBL産生株は、同時に各種の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(CTX-M型などのESBL)やセファロスポリナーゼ(CMY型等)の遺伝子、さらに、アミノ配糖体系抗菌薬への高度耐性に関わるArmA、RmtC、RmtBなどの16S rRNAメチルトランスフェラーゼの遺伝子も保持していることが多い。加えて、キノロン薬の標的分子でありDNAの複製に関与するDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVのキノロン決定領域(QRDR)に特定のアミノ酸置換も獲得していることが多い。つまり、NDM型MBL産生株の多くは、臨床的に用いられるほとんどの薬剤に耐性を獲得している点が特徴であり、この種の多剤耐性株による感染症は予後不良なことが多いため、国際的に大きな懸念事項となっている。

2013年6月、アジア地域の医療機関で治療を受けたアジア系の70代の男性患者が、6月中旬に日本での治療継続のため、東日本地域の医療機関に入院した。患者の喀痰などから、コリスチン以外のグラム陰性菌感染症に有効とされているセフェム系、カルバペネム系、モノバクタム、アミノ配糖体系、フルオロキノロン系、ホスホマイシン、ミノサイクリンなどの多くの抗菌薬に対し汎耐性を示す肺炎桿菌が分離された。メロペネム(MEPM)とメルカプト酢酸ナトリウム(SMA)のdiskを用いた「modified SMA-disk method」(https://www.nih-janis.jp/material/material/modified%20SMA-disk%20method.pdf)によるMBL 検出法では、明瞭な結果が得られなかったが、modified Hodge test (MHT)3)を実施したところ、「陽性」の結果が得られたため、カルバペネマーゼ産生株であることが強く示唆された。PCRによりカルバペネマーゼおよびその他のβ-ラクタマーゼの遺伝子などの検出とともにPCR産物の塩基配列を解析した。その結果、この菌株からは、NDM-1、セリン型のカルバペネマーゼOXA-181(OXA-48のvariant)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼCTX-M-15、プラスミド媒介性のCMY-4(AmpC型セファロスポリナーゼ)などの産生に関与する各種の遺伝子、さらに、広範囲アミノ配糖体高度耐性に関与するArmAの遺伝子も検出され、薬剤感受性試験結果のデータとから、広範囲抗菌薬耐性(extensively drug-resistant, XDR)株4)であると判定された。

今回、この医療機関では初期の段階でこの菌株を検出し、適切な感染対策が取られたことから、院内での患者間伝播は発生しなかった。

最近、カナダや米国内では、NDM-1 産生株による院内感染が散発的に発生している5,6)。米国では、近年KPC型カルバペネマーゼを産生する腸内細菌科の細菌が広く蔓延してきたため、2013年3月にCDC が警告を発している(http://www.niid.go.jp/niid/ja/drug-resistance-bacteria-m/3305-carbapenem.html)。日本国内では2010年以降、輸入例を中心に数例のNDM-1 等産生株の分離の報告があるが(http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/34/395/graph/kt39521.gif)が、幸いにも院内感染は発生していない。OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌は、ヨーロパなどで院内感染を引き起こす主要な原因菌の一つとして警戒されているが、日本国内においては数例の輸入例が報告されているのみである。OXA-181 カルバペネマーゼはOXA-48型カルバペネマーゼのvariant(変種)であり、カルバペネムの分解活性がより高いと報告されている。OXA-181 産生株は、インドから近隣の国々やオセアニア、北欧、北米などに拡散しつつあることから、OXA-48産生株とともに今後も国内への流入が続くと予想される。流入初期の段階でそれらを見逃すと、気がつかれないまま入院患者間で伝播拡散する恐れもある。わが国と同様に、NDM-1 型やOXA-48型カルバペネマーゼ産生株がまだendemic になっていない米国やカナダでは、近年、海外からの患者の入院時検査が推奨されている6,7)。国内の医療機関においても、海外の医療機関で診療を受けた経歴を有する患者についてはこれらの多剤耐性菌の存在を念頭においた検査や感染対策の実施を検討する必要がある。

なお、今回分離された株のように、複数のカルバペネマーゼを産生する菌に関しては、チュニジアでNDM-1とOXA-48を同時に産生する多剤耐性肺炎桿菌の分離が報告されている8)。ノルウェーでもNDM-1とOXA-181を同時に産生する株が分離されている9)。今後、わが国でも、NDM型などのMBLのみならずKPC、OXA-48、OXA-181などの多様なカルバペネマーゼを同時に産生する株が出現する可能性もある。

カルバペネム耐性株や、多剤耐性株が分離された場合、遺伝子などの詳しい解析については、以下の厚生労働省事務連絡を参考に、国立感染症研究所細菌第二部(taiseikin[アットマーク]nih.go.jp )に相談いただきたい。

*[アットマーク]は@に置き換えて送信してください。

厚生労働省 事務連絡(平成25年3月22日)
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/130322.pdf

 

参考文献
1) Kumarasamy KK, et al., Lancet Infect Dis 10:  597-602, 2010
2) Nordmann P, et al., Trends Microbiol 19: 588-595, 2011
3) Girlich D., et al., J Clin Microbiol 50: 477-479, 2012
4) Magiorakos AP, et al., Clin Microbiol Infect 18: 268-281, 2012
5) CDC, MMWR 61: 446-448, 2012
6) Borgia S, et al., Clin Infect Dis 55: e109-117, 2012
7) Ahmed-Bentley J, et al., Antimicrob Agents Chemother 57: 3085-3091, 2013
8) Ben Nasr A, et al., Antimicrob Agents Chemother (Epub ahead of print), 2013
9) Samuelsen O, et al., J Antimicrob Chemother 68: 1682-1685, 2013

 

<解説>
NDM 型カルバペネマーゼ:メタロ- β-ラクタマーゼの一種で、2013年7月2日時点で、NDM-1 からNDM-10までのvariant (変種)がデータベースに登録されている。variant の同定には塩基配列を決定する必要がある。

OXA-48型カルバペネマーゼ:セリン型のカルバペネマーゼの一種で、OXA-48およびそのvariant であるOXA-181などのカルバペネマーゼが含まれる。variant の同定には塩基配列を決定する必要がある。

 

国立感染症研究所細菌第二部
    外山雅美(協力研究員) 長野由紀子(協力研究員) 柴山恵吾
名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学分野
  長野則之(客員研究員) 荒川宜親

 

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