国立感染症研究所

情報センター

IASR-logo

腸管凝集付着性大腸菌耐熱性毒素遺伝子(astA)保有大腸菌O166:H15が原因と考えられた社員食堂における食中毒事例について-大阪市

(IASR Vol. 36 p. 89-90: 2015年5月号)

2012年1月以降、病原体検出情報システムにおける下痢原性大腸菌の分類は、腸管病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、腸管凝集付着性大腸菌および「他の下痢原性大腸菌」とされている。「他の下痢原性大腸菌」に含まれるのは、胃腸炎の原因と考えられるもの、生化学的性状が同じものが多数の患者より検出された場合と定義されている1)

astA はEAST1(腸管凝集付着性大腸菌耐熱性エンテロトキシン1)をコードする遺伝子であり、「他の下痢原性大腸菌」の主な病原因子の一つに挙げられている1)。EAST1単独での下痢原性は不明だが、1996年に大阪市で初めてastA 保有大腸菌O166:H15による集団食中毒事例が発生して以降2)、国内では福井県(1997年O166:H15、2004年O169:H-)3)、広島市(2002年血清型不明)4)、大分県(2003年O6:H10)5)、熊本市(2006年O166:H15)6)で食中毒事例が報告されている。今回、大阪市では2事例目となるastA 保有大腸菌O166:H15による食中毒事例を経験したので、概要を報告する。

2013年6月14日に、市内A社社員が下痢、腹痛を主症状とする胃腸炎症状を呈しているとの届出がなされた。調査の結果、共通食は6月10日に社員食堂で提供された昼食以外にはなかった。喫食者112名のうち39名が発症しており、当所において患者便32名、調理人便3名、検食18検体の食中毒菌およびウイルス検査を実施した結果、患者便22名、調理人便1名、検食1検体(オムレツきのこソース)から大腸菌O166:H15が検出された。他の食中毒菌およびノロウイルスは検出されなかった。患者1名からサポウイルスが検出されたが、病因物質とは特定しなかった。

当所での下痢原性大腸菌検査は、糞便をDHL寒天平板培地上に塗抹し、典型的コロニーをTSI培地、LIM培地、SC培地に移植して生化学性状の確認およびO血清群の型別を実施している。複数の患者から同一の生化学性状あるいは同一のO血清群を示す大腸菌が分離された場合に病原因子遺伝子を検索している。病原因子遺伝子の検索は、2種類のマルチプレックスPCR法で行っており、最初に4遺伝子(invE、VT、ST、LT)7)の検出を試み、これらを保有していなければさらに4遺伝子(hlyAeaeaggRastA)について検索を実施している。本事例由来大腸菌O166:H15は典型的な大腸菌の性状(TSI培地上で斜面部黄変、高層部黄変、硫化水素非産生、LIM培地上でリジン脱炭酸酵素陽性、運動性あり、インドール産生、SC培地上でクエン酸利用能なし)を示し、市販の同定キット(API20E)においてもEscherichia coli と同定された。マルチプレックスPCRによる大腸菌O166:H15の病原因子遺伝子検索の結果、全株からastA のみが検出された。なお、本事例の食品検査については検食をmEC培地で37℃、18時間増菌培養後、培養液についてastA を標的としたPCRを実施した。astA陽性と判定された培養液をDHL寒天平板培地およびクロモアガーECC寒天平板培地に塗抹し、上記の方法で大腸菌の分離・同定を行い、astA の有無を確認した。

制限酵素XbaIおよびBlnIによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンおよび11薬剤に対する感受性パターンは全株でほぼ同一であった()。なお、1996年における大阪市内の事例で分離されたastA 保有大腸菌O166:H15とはPFGEパターンは異なっており()、1996年の分離株では全株がテトラサイクリンに感受性であったのに対して、本事例由来株は全株が耐性を示した()。また、API20Eで1996年分離株はシュクロース利用能が陽性であったのに対して、本事例由来株は陰性と判定された。

調理人1名および検食1検体(オムレツきのこソース)から大腸菌O166:H15を分離したが、この調理人は「まかない」として当該食堂で調理された食品を喫食していた。また、聞き取り調査および喫食状況に関する分析が行われており、オムレツきのこソースは原因食品ではなく、交叉汚染の結果によることが推定された。

大腸菌O166のH血清型別を実施していただきました大阪府立公衆衛生研究所細菌課の勢戸和子先生、食中毒原因究明調査にご協力いただきました当所調査研究課微生物保健グループの皆様、大阪市健康局生活衛生課ならびに大阪市保健所北部生活衛生監視事務所の皆様に深謝致します。

 
参考文献
  1. IASR 33: 1-2, 2012
  2. Zhou Z, et al., Epidemiol Infect 128: 363-371, 2002
  3. IASR 25: 262-263, 2004
  4. IASR 23: 229-230, 2002
  5. IASR 25: 101-102, 2004
  6. 熊本市ホームページ(2015年1月10日確認)
    http://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=1240&sub_id=1&flid=5400
  7. 伊藤文明, 他, 日本臨床 50: 343-347, 1992

大阪市立環境科学研究所
  中村寛海 梅田 薫 山本香織 長谷 篤 平井有紀 小笠原 準 入谷展弘 西尾孝之
大阪市保健所北部生活衛生監視事務所
  西村真衣 小山浩嗣 西 康之
大阪市健康局生活衛生課
  西村直己 中野有一

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version