国立感染症研究所

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保育所における腸管病原性大腸菌O55:H7による食中毒事例―長野県

(IASR Vol. 34 p. 382-383: 2013年12月号)

 

2013年7月、長野県中部の保育所で腸管病原性大腸菌(EPEC)O55:H7を原因とする食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

2013年7月29日、A市から管轄保健所に、7月28日から下痢等の胃腸炎症状を呈し19人の園児が欠席しているとの連絡があった。発症者は当該保育所の園児および職員247名中81名(1歳~46歳)で、7月27日から下痢(90.1%)、腹痛(50.6%)、発熱(22.2%)等の症状を呈していた。有症者の約7割が7月28日~29日にかけて発症しており、発症曲線は一峰性を示した(図1)。

保健所の調査によると、提供されていた給食はすべて保育所内で調理されたもので、園児の他、保育所の職員や調理従事者も同一メニューを喫食していた。食材の多くは市販品であったが、野菜の一部は園内で自家栽培されたものが使用されていた。園内の使用水は市の公共水道水で、水道直結型であり受水槽の設置はなく、立ち入り調査時の測定では蛇口において充分な残留塩素濃度(0.2~0.5ppm)が確保されていた。また、食品の取り扱いに一部不備が認められたものの、調理室およびトイレの設備は衛生的に保持されていた。プールは水道水を使用しており、別途塩素剤を滴下することで残留塩素濃度が管理されていた。

保健所において、患者・調理従事者便、検食、調理器具等ふきとり検体、プール水およびプール周囲ふきとり検体を採取し、常法に従い食中毒起因菌の検査を実施したところ、患者10検体中9検体、調理従事者8検体中5検体から大腸菌 O55が優位に検出された。なお、他の食中毒起因菌およびノロウイルス(当所で検査実施)は検出されなかった。

分離された大腸菌 O55は、当所においてPCR法により大腸菌病原性関連遺伝子(VT1/2、LT、STp、STh、invEastAafaDaggReaeおよびbfpA 遺伝子)の検査を実施したところ、供試菌株のすべてから細胞への密着に関与するインチミン遺伝子eaeが検出されたことから、腸管病原性大腸菌(EPEC)が集団感染の起因菌と推察された。

しかし、検食17検体、ふきとり検体17検体、プール水1検体のいずれからも大腸菌O55が検出されなかった。そこで当所において別途、検食と自家栽培した野菜のノボビオシン加mEC培地による増菌後の培養液105検体およびプール水をメンブランフィルター法により集菌したフィルター振出液1検体について、eae遺伝子をターゲットとしたPCR検査を実施したが、いずれの検体からも検出されなかった。

なお、分離された菌株14株について、病原大腸菌免疫血清を用いてH血清型別を実施するとともに、制限酵素XbaI を用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、すべての菌株のH血清型はH7で、PFGEは同一パターンを示した(図2)。

保健所は、患者および調理従事者からEPEC O55:H7が検出されたこと、患者の発症曲線は一峰性を示し単一曝露が推定されたこと、さらに検食からは同菌種および病原遺伝子は検出されなかったものの、共通する食事はこの保育所で調理した給食のみであるなどの疫学情報から、本事例は当該施設の給食を原因とするEPEC O55:H7による食中毒と断定した。

なお、7月26日の昼食メニューの喫食状況が発症者と関連性が強く、発症ピークとEPECの潜伏期間とも一致することから、原因食品は26日の給食と推定された。

当県では近年、食育の普及により自家栽培した食材の使用や、給食施設の調理従事者が自ら調理した給食を児童と一緒に食べる傾向が強くなっている。しかし、集団食中毒事例が発生すると調理従事者も汚染食品から感染・発症する可能性が高く、さらに今回のような起因菌の判別に苦慮するEPECの場合、原因究明が難しくなるなどのデメリットも認識させられた事例であった。

 

長野県環境保全研究所 関口真紀 笠原ひとみ 中沢春幸 藤田 暁    
長野県松本保健福祉事務所 矢島康宏 大和真一 斉藤邦昭 小山敏枝 尾川裕子 二本松萌

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