国立感染症研究所

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マレーシア・ティオマン島より帰国した旅行者における急性の筋肉ザルコシスティス症様症状の持続的アウトブレイク、2011~2012年―欧州

(IASR Vol. 33 p. 338-339: 2012年12月号)

 

2012年11月4日現在、マレーシアのティオマン島への旅行に関連した急性の筋肉ザルコシスティス症疑いの患者100名が確認されている。2011年は35名、2012年は65名が主に各年7、8月に現地を訪れており、集団発生は続いていると考えられ、疫学調査が進行中である。

GeoSentinel、EuroTravNetおよびTropNetによると、急性の筋肉ザルコシスティス症疑いの患者65名はドイツ(25)、フランス(20)、オランダ(12)、スイス(3)、ベルギー(2)、スペイン(2)、シンガポール(1)より報告があり、これらは2011年からの集団発生の第2波と考えられる。顕著な骨格筋の痛み、発熱、好酸球増加が前回みられたが、症状は今回もほぼ同様で、入院は4名であった。

検査所見では好酸球数と血清CPKレベルの上昇がみられた。患者42名については血清学的に旋毛虫症陰性であった。筋生検をした患者8名中6名で筋炎を、2名については筋肉内にシスト(sarcocysts)を確認した。

ザルコシスティスは細胞内寄生性で終宿主と中間宿主を要する。ヒトはSarcocystis hominis S. suihominis の終宿主であり、sarcocystを含む加熱不十分な牛肉あるいは豚肉摂食が感染原因となる。感染により急性の消化器症状がみられるが、ほとんどの場合不顕性に終わる。 130種類といわれるザルコシスティスの中には、偶発的に人が中間宿主として他の肉食動物が排出するオーシストを、汚染された水あるいは食物を介して感染しうる場合があると考えられる。動物実験などから、原虫の無性生殖や体内での伝播に際し、筋肉や腎臓、肺等の属器で炎症が生じることが知られ、骨格筋や心筋に移行した原虫は感染性を備えたsarcocystを形成する。筋肉ザルコシスティス症の確定診断は筋生検で行われる。人ザルコシスティス症に関しては確立された治療法がない。これまで100名弱のヒト筋肉ザルコシスティス症の報告があるが、多くは不顕性で、マレーシアに多い。過去の大きな集団発生としてはマレーシアのジャングルで軍事演習を行った米国軍人15名中7名の感染例がある。

筋肉ザルコシスティス症に関してはその情報が少ないことから開業医の関心も低く、おそらくは未確認の感染例が多く存在し、真の感染者数に関しては過少評価している可能性が高い。ティオマン島への渡航が主たる要因とされる中で、世界中からの旅行者共通の感染源は不明である。季節的なパターンは明らかで、旅行ピークの時期や飲食物や環境の汚染、気候その他の要因が関連しているのであろう。ティオマン島への旅行者は現地に健康リスクがあることに留意し、飲食に関しては衛生上の注意を十分払うこと。公衆衛生担当者、開業医はティオマン島への旅行者において筋肉痛、好酸球数増加などを認めた場合は本症を鑑別診断として行う。

(Euro Surveill. 2012;17(45):pii=20310) 

 

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