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<速報>呼吸器症状を呈した乳幼児から検出されたヒトボカウイルスの遺伝子系統樹解析および流行疫学(2011~2013年)―三重県

(掲載日 2014/4/1) (IASR Vol. 35 p. 111- 112: 2014年4月号)

 

ヒトボカウイルス(human bocavirus:HBoV)は、パルボウイルス科パルボウイルス亜科ボカウイルス属に分類されており、急性呼吸器感染症(acute respiratory infection: ARI)の起因ウイルスの一つである。HBoVは、2005年にスウェーデンの呼吸器感染症患者から初めて発見され1)、国内においても、近年、HBoV検出報告2-3)がされているが、患者臨床情報等の報告は少なく、いまだに疫学的に不明な点が多い(臨床的意義は明らかではない)。そこで我々は、三重県内のHBoV流行疫学を把握するために、2011年1月~2013年12月の検出状況(検出時期、臨床診断名等)および遺伝子系統樹解析を実施したので報告する。

上記調査期間に、三重県感染症発生動向調査事業において県内の定点医療機関を受診した小児呼吸器系疾患患者675名の患者検体(鼻汁、咽頭ぬぐい液、気管吸引液)を対象とした。HBoV遺伝子検査はAllander1)らのConventional-PCR法にて実施した。検出された一部のHBoVについてVP1/ VP2領域の遺伝子系統樹解析4)を行った。

675名中21名(3.1%)の患児からHBoVが検出された(表1)。年別検出数は2011年5名、2012年9名、2013年7名であった。HBoV陽性者の年齢構成は0歳3名(14%)、1歳15名(71%)、2歳3名(14%)であり、検出月は2月1名(4.8%)、3月1名(4.8%)、4月4名(19%)、5月8名(38%)、6月4名(19%)、7月1名(4.8%)、8月1名(4.8%)、11月1名(4.8%)と春から初夏に多数検出される傾向であった。

HBoV陽性者の臨床診断名は気管支炎9名(43%)、咽頭炎6名(29%)、細気管支炎3名(14%)等で、12名(57%)の患児は、下気道炎症状からの検出であった。HBoV陽性者の受診時における発熱者(37.5℃以上)は16名(76%)で、このうち9名(43%)は38.5℃以上であった。

VP1/ VP2領域の遺伝子系統樹解析を実施したHBoV株(17名)は、3つのGroupに分類された(図1)。採取年別のGroup分類(内訳)は、Group1は4名(2011年2名、2012年1名、2013年1名)から検出された。Group2は12名(2011年1名、2012年7名、2013年4名)から検出されたが、Group3は1名(2011年)のみであった。

他のウイルスとの重複検出については、human metapneumovirus(hMPV)4名、respiratory syncytial virus(RSV)1名の計5名(24%)であった。すべての呼吸器感染症起因病原体の検索には至っていないが、HBoVの検出における臨床的意義を含め依然として不明な点が多いと思われる。今後、さらにHBoVの疫学を解明するためには、積極的かつ継続的なモニタリングを実施し、全国規模のHBoV流行疫学および患者臨床情報の蓄積が必要であると思われる。 

謝辞:本稿を終えるにあたり、三重県発生動向調査事業における検体採取を担当された医療機関の諸先生方および関係各位にお礼申し上げます。

 

参考文献
1) Allander T,Tammi MT,Eriksson M,et al., Cloning of a human parvovirus by molecular screening of respiratory tract samples, Proc Natl Acad Sci 102: 12891-12896, 2005
2) 国立感染症研究所感染症疫学センター:年別ウイルス検出状況,由来ヒト,ヘルペス群 &その他のウイルス, 2009~2013年 https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data95j.pdf
3) 改田厚,久保英幸,入谷展弘,他, 乳幼児呼吸器感染症患者からのヒトボカウイルスの検出―大阪市, IASR 29: 161-162, 2008
4) Chieochansin T,Chutinimitkul S,Payungporn S,et al., Complete coding sequences and phylogenetic analysis of Human Bocavirus (HBoV), Virus Res 129(1): 54-57, 2007

 

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