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<速報> 呼吸器症状(気管支炎等)を呈した小児から検出されたパラインフルエンザウイルスの動向―三重県

(掲載日 2012/8/15)

 

三重県における呼吸器系ウイルスを対象とした感染症発生動向調査では、近年、気管支炎等の下気道炎症状を呈する呼吸器疾患が増加している。これらの疾患から、小児の急性呼吸器感染症の原因ウイルスであるパラインフルエンザウイルス(Parainfluenza virus: PIV)が年間を通し検出されている。そこで本県におけるPIV抗体保有状況および気管支炎等を呈した小児から検出されたPIVの動向について報告する。

パラインフルエンザウイルス抗体保有状況:2010~2011年に県内の病院等で採血され、使用承諾の得られた血清検体(629名)を使用した。PIV抗体価測定は、デンカ生研製の赤血球凝集(HA)抗原(1型、2型、3型、4型)を使用し、添付文書に従い赤血球凝集抑制(HI)抗体価測定を実施した。HI抗体保有率(1:10以上)はPIV1型78.5%、PIV2型77.6%、PIV3型96%、PIV4型71.2%であった(図1)。

すべての型の年齢群別抗体保有率(1:10以上)の推移から、5~9歳群以上は大部分が抗体を保有しており、成人の年齢層においても高い抗体保有率を維持していた。他の型と比較すると、PIV3型が最も抗体保有率が高く、2歳児83.3%、3歳~50歳群以上は97.8%~100%であった。このことは過去の報告1, 2) とよく一致していた。抗体保有率(1:40以上)では、PIV1型3.2%、PIV2型25.4%、PIV4型1.4%と低かったが、PIV3型では90.3%と高く、再感染および流行規模等に関与していると推察される。

パラインフルエンザウイルス分離・検出状況:2009年1月~2012年7月までに発生動向調査事業における県内定点医療機関を受診し、小児の呼吸器系疾患患者から採取した咽頭ぬぐい液、気管吸引液等503検体を用い、国立感染症研究所のパラインフルエンザウイルス検査マニュアルおよびWY Lamら3) によるRT-PCR法でPIV検出を実施した。ウイルス分離にはMDCK細胞を使用した。503検体中87例(17%)からPIVが分離・検出された。型別内訳はPIV1型47例(54%)、PIV2型8例(9.2%)、PIV3型24例(28%)、PIV4型8例(4A:2例、4B:6例)(9.2%)であった。PIV1型は2011年には年間を通して検出され、PIV2型は2010年(4件)と2012年(3件)に複数検出されている。PIV3型は2010年以降6~7月を中心に検出され、PIV4型は2011年に秋季~冬季に5件、2012年には1月に2件、7月に1件確認された(図2)。

PIVが検出された患児の臨床症状は、気管支炎47例(54%)で最も多く、次いで細気管支炎が19例(22%)であった。発熱の程度は39℃台が36例(41%)で最も多かった(表1)。

PIV検出例は87例中68例(PIV1型36例、PIV2型6例、PIV3型18例、PIV4型8例)が0~2歳までの低年齢層であるが、過去には、小児だけでなく高齢者に至るまで幅広い年齢層での集団感染が報告4, 5, 6) されているので留意が必要である。また、PIV患者数の実態が掴めていないこと7) が示唆されており、継続的にPIV発生動向調査を実施することにより、PIV流行の季節性等8) を把握し、感染対策を講じることが必要であると思われた。

 参考文献
1) 西川文雄, 臨床とウイルス 3(2): 129-135,1975
2) 篠崎立彦, 臨床とウイルス 8(2): 213-218,1980
3) WY Lam, J Clin Microbiol 45(11): 3631-3640,2007
4) 尾西 一,  IASR 20: 223-224, 1999
5) 山腰雅宏, 感染症学雑誌 73(4): 298-304,1999
6) 山本一成, 平成22年度新潟市衛生環境研究所年報第35号
7) 改田 厚, 臨床とウイルス 40(3): 142-149,2012 
8) AM Fry, Clin lnfect Dis 43: 1016-1022,2006

三重県保健環境研究所
矢野拓弥 前田千恵 楠原 一 赤地重宏 松野由香里 山寺基子 永井佑樹 
岩出義人 片山正彦 福田美和 中川由美子 高橋裕明
平岡 稔 山内昭則 山口哲夫
落合小児科医院 落合 仁
すずかこどもクリニック 渡辺正博
独立病院機構三重病院 庵原俊昭

 

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