国立感染症研究所

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保育施設におけるヒトパラインフルエンザウイルス3型による集団感染事例―宮城県

(IASR Vol. 42 p194-195: 2021年9月号)

 

 ヒトパラインフルエンザウイルス(human parainfluenza virus: HPIV)は小児の急性呼吸器感染症の原因ウイルスの1つであり, HPIV1型からHPIV4型の4つの型に分類される。現在, 1/3型はヒトレスピロウイルス1/3, 2/4型はヒトオルトルブラウイルス2/4と分類されているが, 本稿ではHPIVのウイルス名を用いる。HPIV3型は伝播力が強く, 小児科病棟などで流行も報告されている1)。飛沫感染により伝播し, 2~6日の潜伏期を経て発熱, 咳, 上気道炎などを引き起こす。

 2021年6月20日~7月16日にかけて, 宮城県内の保育施設(1歳児クラス6名, 2歳児クラス11名の計17名, 職員6名)において, HPIV3型が原因と考えられる呼吸器感染症の集団発生事例が確認されたので, その概要を報告する。

 2021年6月28日に当該保育施設から所轄保健所に呼吸器症状を呈する幼児が多数発生したと報告があった。保健所が施設内の患者発生状況を調査したところ, 2021年6月20日~6月28日の間に発熱(37.5-40℃), 咳, 鼻汁を主症状とする幼児が13名確認された。発症者13名のうち4名は受診先の医療機関でRSウイルス, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2), アデノウイルス, ヒトメタニューモウイルス等の検査を受けていたが, いずれも陰性であった()。

 保健所は, 当該保育施設に感染対策の指導を行うとともに, 原因を明らかにするため, 当該保育施設および発症者の家族ならびに受診医療機関と調整後, 発症者5名から鼻腔ぬぐい液を採取し, 当センターに検査を依頼した。当センターでは, SARS-CoV-2, インフルエンザウイルス(A-C型), HPIV(1-4型), RSウイルス, ヒトメタニューモウイルス, アデノウイルス, ヒトボカウイルス, ヒトコロナウイルスおよびヒトライノウイルスを対象としたRT-PCR法2)またはPCR法3)による遺伝子検出を実施した。その結果, 5名全員からHPIV3型に特異的な増幅産物が得られた。さらに, ダイレクトシーケンス法によりPCR産物の塩基配列を解析したところHPIV3型であった。検出されたHPIV3型の塩基配列(hemagglutinin-neuraminidase glycoprotein遺伝子領域141bp)は100%一致し, その他の呼吸器ウイルスは検出されなかったため, 本事例はHPIV3型による集団感染事例と考えられた。

 なお, 当該保育施設では7月16日以降, 新たな患者は確認されていない(7月26日現在)。

 2021年7月現在, RSウイルス感染症が全国的に流行しており, 宮城県においても第25週(6月21日~6月27日)の1定点医療機関当たりのRSウイルス感染症患者報告数が過去5年間と比較して約12.5倍に急増し4), その後も県内全域で患者報告数は増加している。当該保育施設が所在する保健所管内においても, RSウイルス感染症の集団感染事例が4月30日から発生しているが, その一方で本件を境に原因不明の呼吸器感染症の集団感染事例の報告が散見されており, 現在も発生が続いている。今回, HPIV3型が検出された幼児の同居家族において, 咳, 発熱等の症状を呈している者もいるとの情報があることから, HPIV3型が地域流行している可能性も推察される。今後も県内の呼吸器感染症の調査を継続し, 患者報告数等の動向を注視しながら関連機関に情報を発信していきたい。

 謝辞:本報告を行うにあたり検体採取および情報提供にご協力いただきました関係各位に深く感謝いたします。

 

参考文献
  1. Karron RA, et al., J Infect Dis 167: 1441-1445, 1993
  2. Bellau-Pujol S, et al., J Virol Methods 126: 53-63, 2005
  3. Lin C-Y, et al., Int J Environ Res Public Health 17(2): 564, 2020
  4. 宮城県ホームページ, RSウイルス感染症の流行について(注意喚起)
    https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/situkan/rs-virus2021.html

宮城県保健環境センター微生物部
 佐々木美江 大槻りつ子 坂上亜希恵 山木紀彦    
宮城県結核・感染症情報センター
 後藤郁男          
宮城県疾病・感染症対策課   
 門脇 透 橋本朱里 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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